「普通の幸せな家庭の話」ではない

Aさんの件は、決して「普通の幸せな家庭に起きたケース」とはいえず、多くの夫婦間で起きている問題を象徴しているように思う。

Aさんは、「昨日まで仲が良かった」「妻からの不満は聞いたことがない」と証言している。ところが妻は、「数年間悩み、半年前に離婚相談に行った」のである。決して、突発的な思いつきや誰かの入れ知恵で離婚に踏み切ったのではない。

つまり、Aさんが目の前にいる妻をよく見ていなかったこと、そして、妻の心を理解していなかったことに、最も根本的な問題点がある。

Aさんは、結婚して夫婦になった以上、夫婦はそれぞれの義務・役割を果たすべきであり、それが当然と理解していたのだろう。他方、妻は、いたわり合い、苦労を分かち合う平等なパートナーを望んでいた。両者の間には、根本的な価値観の違いがある。

妻を「指導」しようとしていた夫

また、Aさんは、妻に歩み寄らず、妻を「指導」しようとしていた。そこに、上下関係の意識がなかったと言い切れるだろうか。

夫を主君(主人)とする社会的文化的規範が通用する時代は、既に過去のものとなっているのである。

男女が理解し合うのは容易ではないが、不可能ではない。多くの女性は、平等なパートナーを求めている。男性が「自分は妻を平等なパートナーと見ているだろうか」と自らを見直すことにより、日本の家庭がより幸せになることは間違いない。

大貫 憲介(おおぬき・けんすけ)
弁護士

1959年生まれ。1978年International School of Bangkok卒業。1982年に上智大学法学部法律学科卒業、1989年弁護士登録。1992年に独立し、さつき法律事務所を開設。外国人を当事者とする案件、離婚案件などを含む一般民事事件を中心に弁護士業務を行う。2015年ごろからTwitter(@SatsukiLaw)でモラ夫の生態についてツイートしている。2018年9月からは、4コマ漫画「モラ夫バスター」を週1本ペースで掲載。