遺伝子学的検査費用も保険適用で約6万円に
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは?
乳がんの5%は遺伝性といわれており、そのうち約半数はBRCA1、BRCA2と呼ばれる原因遺伝子に変異がある遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と考えられています。この遺伝子変異があると、乳がん・卵巣がんにかかりやすくなります。最近は血液を採取して遺伝性乳がんかどうかを調べることができます。一定の要件を満たせば保険適用となり、約6万円(3割負担の場合)で検査が受けられます。
乳がんと診断されている人のうち……
●45歳以下
●60歳以下でトリプルネガティブタイプの乳がんを発症
●2個以上の原発性乳がん(再発は含めない)
●男性乳がん
●3親等以内に乳がんや卵巣がんを発症した血縁者がいる
上記要件に1つでも当てはまれば保険適用となる。
※(乳がんではなく)卵巣がんの診断を受けた人も、保険適用で遺伝子学的検査の受診が可能です
さらに、すでに乳がん・卵巣がんを発症している人で、遺伝子変異が確認された場合は、保険適用かつ高額療養費制度を利用しての予防切除が可能です。片方に乳がんを発症し、HBOC陽性とわかったら、同時にもう片方を切除することも可能で、卵巣を取る人もいます。すぐに決断するのは難しいこともあるでしょう。その場合は、あとからでも予防切除は可能です。また、予防切除をせず、MRIでこまめにチェックしていく方法もあるので、落ち着いて納得できる方法を選んでほしいと思います。
※乳がんによる乳房切除、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)で乳房を切除した人の乳房再建手術にも保険が適用されます(詳細は、加入している健康保険組合または、厚生労働省のウェブサイトでご確認ください)。
治療と仕事は両立可能
働く女性が乳がんと診断されると、仕事への影響が気になるものです。手術自体は乳房の温存ができてリンパ節転移もなければ3、4泊の入院で済みます。乳房同時再建を行う場合でも2週間程度の入院です。
術後の薬物療法やホルモン療法は長い治療になりますが、治療と仕事の両立は可能な場合がほとんど。ホルモン剤の服用は通常5年、抗体薬は3週間に1回ペースで1年程度、抗がん剤は2〜3週間に1回ペースで長くても半年くらいです。いずれも外来で治療ができます。気になる副作用も、最近は薬の進化で嘔吐することがほぼなくなりました。投与後初めの2〜3日は倦怠感を感じることがありますが、在宅勤務を上手に取り入れながら仕事を続けている人も多いですね。抗がん剤による副作用の脱毛も、頭皮冷却療法の登場で軽減されています。
乳がんの診断を受けると、「治療に専念しよう」と仕事を辞めてしまう人がいますが、病気と向き合うだけの毎日では気がめいってしまうものです。治療と仕事の両立は大変な面もあるかもしれませんが、働いて治療費を稼ぎつつ、社会とのつながりを保つほうが精神面でも良い効果が得られるのではないかと思います。
なにより、がんを早期治療できれば治療の負担も軽減でき、根治もめざせます。定期検診とセルフチェックは欠かさず行っていきましょう。
構成・文=中島夕子
東京女子医科大学医学部外科学講座 乳腺外科学分野 教授・基幹分野長。1990年東京大学卒業後、同大学附属病院第3外科入局、国立がんセンター中央病院などを経て現職。日本外科学会専門医・指導医、日本乳癌学会乳腺専門医・指導医・理事。