「お姉ちゃん、ECで酒は売れないよ」
さて、コヨイを製造してくれる酒蔵をどうやって探したかというと。人づてではなく、なんとタウンページで探し、「うちのお酒を造ってくれませんか?」とアナログな方法でアプローチした。200軒近く電話をかけたうち、承諾してくれたのはわずか2軒。西日本にある酒蔵が、石根さんの熱意に打たれ、かつ「低アルコール飲料はおもしろい」と思って製造を引き受けてくれたのだそう。ある酒造の主は70代だったが、もともとチャレンジ精神がありおもしろがってくれた。しかし、これは珍しいパターンだ。
「酒蔵業界ってとにかく体質が古いんです。『そんなもの造れない』と何度も言われました。オンラインでtoCの小売りをやりますというと『お姉ちゃん、ECで酒は売れないよ』って何度もダメ出しをされました。でも、課題は裏を返せば、ポテンシャルでもあるので、ECで売れるようなお酒を造ればいい。そのためにはどんな戦略が必要かを考え抜いた。それがシーンペアリングだ。
「キャンプ場や野球場で飲んだあの時の味が忘れられない、何かを達成した時に同僚と乾杯したあの味は最高だったなど、お酒を飲んで楽しかった思い出はシーンにひも付いていると思うのです。そこでアウトドア、一人で家でまったりする、気の合う仲間とのパーティーなどのシーン別で飲むお酒を考案。例えば、『TAKIBI』というアウトドアをイメージしたものは、ウイスキーにシナモンや紅茶を入れてホットで飲むカクテル、『ハーバルデトックス』という一人で飲むことを想定した、ラベンダーをベースに心身をリラックスさせるカクテルなど16種類を展開しています」
さらには「パーソナライズ診断」を設け、自由時間はどんなことをしたいか、どんな味わいが好きか、苦手な食材は何かなどのチャート診断を行って、今の自分の気分や嗜好にぴったりなコヨイも提案してくれる。保存料、人工甘味料、着色料は不使用、多種多様なフルーツやハーブを新鮮なままでボトリングしている。安心・安全なアルコールカルチャーを世に広めたいという強い思いがある。
最初は3種類ぐらいの開発にとどめておくのが定石だが、16種類もつくったのは、やはり“アホ”だと石根さんは当時の自分を振り返る。
情緒面やクリエーティブ面で訴える戦略を打ち出す
スタイリッシュでカラフルなボトルに入ったクラフトカクテルは、一本1650円(税込み:360mL/375mL)で3杯は飲める。女性や、お酒は弱いけど飲むのは好き、という人に響きそうだ。
「『おいしそう!』とか『かわいい!』という情緒面やクリエーティブ面で訴えてまずは手に取ってもらい、その後、味はもちろんナチュラル製法や、アルコール3%という安心・安全面を訴求するという戦略で売り出しました」
もちろん、マーケットのニーズも読んでいる。
現在若者の強い度数のアルコール離れがあり、お酒は好きだけれど弱いというマイルドなお酒好きが一定数いるからだ。しかも「クラフトカクテルで低アルコール」というジャンルは競合が少ない。ポジショニングも取れると踏んだ。