もっと“ビンビン英雄ヒーロー”の話をしよう

私自身の話ですが、若者の頃、当時の彼氏と途中まで進み「コンドームを持ってないから、できないよ」と彼氏に告げられた時、私は「いいではないか」という態度をとったのですが、その男性はアソコをビンビンにしたまま真顔で帰宅をうながしました。そして本当に最後までせずに、私たちはおのおのの家に帰ったことがありました。

何が言いたいかというと、男性もそういう対応で女性と自分の体と生活と人生を守れるわけで、そんな“ビンビン英雄ヒーロー”たちの話ももっとみんなでしたほうがいいんじゃないかなって思うんです。

【イラスト】ビンビン英雄現る
イラスト=田房永子

日本の性教育やセックスにまつわる話って、男性だけに性欲があって、女性はいつでも受け身で常に自分の身を守ることを第一にしているものだ、という現実とは違う設定が土台になりすぎてる。それによって話さなければいけないことが言えなかったり、現実に起こることを「ない」ことにしなきゃいけなかったりする。

男性は「性欲があります」ってことを自ら言わなくても、「ある」という前提で世の中が回っている。それによって困っている男性もいると思うけど、その存在は無視されている。一方、女性は「ない、弱い、薄い」という前提で世の中が回っている。そのくらい隠されているほうが助かる女性も多い。でも私は窮屈さを感じてきた。

男性の性欲を否定しているわけではないのに

私は、コラムなどでこういうふうに、男女の性欲について触れる内容を書くことがあるのですが、読んだ一部の男性を怒らせてしまいます。彼らは「田房は男の性欲を嫌悪し消滅させろと言ってる」と誤読するのです。どういうふうに表現してもそうやって捉える人がいます。

私は男性が持つ性欲自体を否定しているわけではなく、「女性の性欲はないことになっていて、男性の性欲だけが存在しているかのような前提になっているあれこれ」に異議を唱えているだけなのです。だけどなぜか「俺たちに備わっている性欲そのものを失くせと言っている」と怒ってしまう。

性教育やなんかでは、女性は男性の猛り狂う性欲から自分の身を守らなければならない、みたいなところばかり教わっているから、いつも自分の性欲を否定されているような気持ちになる男性もいるのかな、と思います。ぜんぜん違うかもですが。

性欲が高ぶっちゃう時があるとかないとかは男女ともに個人差であり、状況にもより、でも男女の身体のつくりや機能はまったく違う部分があって、妊娠に至っては女性が心身に受ける深刻さはそれこそ男性のそれとは比べものになりません。だからそこは当然ちゃんと教わらなきゃいけない。だけどセックスって楽しいものでもある。自分の性欲と相手の性欲が合致した時ってめちゃくちゃうれしいし、愛があふれることもある。

反面、性暴力になってしまうこともある。その被害がどういうものなのか、どういうことをしたら加害になってしまうのか。それを理解するためにも、その「どういうセックスを自分は望んでいるか」という自分の欲求について思いをはせることって大切じゃないだろうかって思います。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家

1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。