働く意欲を阻害しない社会保険制度へ

社会保険適用拡大のベースになった厚生労働省の有識者の報告書(「働き方の多様化を踏まえた社会保障の対応に関する懇談会」2019年9月20日)でも、社会保険加入のあり方についてこう述べていた。

「まず、男性が主に働き、女性は専業主婦という特定の世帯構成や、フルタイム労働者としての終身雇用といった特定の働き方を過度に前提としない制度へと転換していくべきである。(中略)

ライフスタイルに対する考え方が多様化する中、生涯未婚の者や、離婚の経験を持つ者、一人親で家族的責任を果たしている就労者もいる。(中略)

社会保険制度は、こうしたライフスタイルの多様性を前提とした上で、働き方や生き方の選択によって不公平が生じず、広く働く者にふさわしい保障が提供されるような制度を目指していく必要がある。加えて、個人の働く意欲を阻害せず、むしろ更なる活躍を後押しするような社会保険制度としていくべきであり、特に、社会保険制度上の運用基準を理由として就業調整が行われるような構造は、早急に解消していかなければならない」

自営業者や定年退職者に負担を強いるよりも先にすべきこと

社会保険は働き方や生き方に公平中立な制度であるべきだとし、国民年金保険料の納付免除になる第3号被保険者制度の見直しを提言している。にもかかわらず今日まで手がつけられていないのは明らかに政治の無策であり、怠慢である。

そして冒頭の国民年金保険料支払い義務の65歳未満までの5年間の延長である。会社員に比べて収入が多いとはいえない自営業者やフリーランス、定年退職者に負担を強いるよりも、現在、763万人いる第3号被保険者制度を廃止し、保険料を支払うようにする。そうすれば働く人を含めて社会・経済にも大きく寄与するはずである。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。