ニッチな商品は“熱狂”を呼ぶ

あいにく、五輪(21年)は無観客開催になってしまいましたが、パフを試した消費者らは、口々に「楽しい!」などとSNSでつぶやき、アッという間に拡散。

当時、同商品を販売していた一部のドン・キホーテやPLAZA(プラザ)の店舗、あるいはECサイトでも、アッという間に売れていったそうです。

「社内から販売を疑問視する声も上がった」と話す寺田さん。
写真提供=花王
「社内から販売を疑問視する声も上がった」と話す寺田さん。

また開発段階から、寺田さんたちには2つの発見があったといいます。

1つは、マスよりニッチな「N=1」の声に寄り添った商品は、「これいいよ」や「こういうのが欲しかった!」といった共感を呼びやすく、その声が一部の消費者の間で“熱狂”につながる利点がある、ということ。

もう1つは、大企業ゆえの課題、すなわち「N=1」にフォーカスすると、発売前の市場規模の見積もりや予測が難しい点です。

「新商品開発には一定の設備投資が必要ですが、販売数量の予測が立たないと、当然ながら組織として実行か断念かを判断しづらい側面があった」と寺田さん。

筆者がマーケティング業務でご一緒する大企業各社も、多くが「N=1」の調査に取り組む半面、直接それを商品開発に生かすケースは、4分の1にも満たない。せっかくの貴重な声が「お蔵入り」してしまうことも少なくないのが実情です。

社内から約100件のアイデアが集まった

そんななか、寺田さんはECモール「楽天市場」のプラットフォーム上で、まず限定発売を告知。そこから抽出したデータをAIを使って解析するなどして、市場規模を予測しようと努力したとのこと。

並行して19年から、彼は次なる商品開発に動き出しました。

社内のトップマネジメント層に対し、「研究開発の段階で埋もれている(商品開発に至っていない)アイデアを、ぜひ公募したい」「どうか部下の皆さんに、案内してください」と次々と声をかけ始めたのです。

驚くことに、そこから集まったアイデアは約100件。その中に、寺田さんも注目していた、ある人物からのアイデアも含まれていたといいます。