(5)学習性無力感を解消する
モチベーションを上げる方法を紹介してきましたが、なにをやってもモチベーションが上がらないという状況も起こりえます。なにをやってもやる気が出ない、なかなか集中して取り組めないというときに考えられるのが、「学習性無力感」です。
もとからやる気がなかったというわけではなく、勉強したけれど結果が出ないという経験を繰り返すうちに、「なにをしてもどうせ結果は変わらないんだ」と無気力な状態に陥ってしまうことがあります。
記憶においても同様で、記憶しようとしたけれど結果につながらなかったと感じてしまうと、記憶に対して時間を使うことは無駄だと思い、記憶することに対して消極的になってしまいます。
これは、実験でも明らかになっています。
犬をAとBのグループに分けて電気ショックを与える実験で、グループAの犬はボタンを押すと自分で電気ショックを止められる状態にします。グループBはAと電気の強さは同じですが、自分では止められないことを経験させます。
その後、別の場所で自由に逃げられる環境で電気ショックを与えた場合、グループAの犬は自分で逃げ出す行動を取りましたが、グループBの犬はその場にうずくまって逃げませんでした。
受けた電気ショックは同じでも、自分でコントロールできないと感じたグループBの犬は、自分の行動と電気ショックを受けることは関連しないと学習してしまったのです。これにより、電気ショックから逃れることに対するモチベーションを失ってしまいました。
このような学習は、犬だけでなく人にも起こります。解消するには、行動が結果につながる体験をするのが一番です。
「頭の良さ」は生まれつきではないと伝える
ただ、努力をしなくても点数が取れる簡単なテストではモチベーションが上がりません。自分の行動によって結果が変化したと心から思える体験をする必要があります。自分にとっては少し難しく、はじめは解けなかった問題が学習をすることで解けるようになったという経験です。
記憶の観点では、新しいものがちゃんと記憶できて、それを活用できたという体験をしてもらうのが一番手軽です。
頭のよさは生まれつきではなく、努力や学習によって変化するものだと伝えましょう。そのうえで、なにかを記憶するよい方法を教えたり、脳がちゃんと新しいことを学習できると教えたりすることで、学習に対するモチベーションがなかなか上がらなかった子どもが学習するようになることがあります。
学習することや記憶することは結果や成果につながる、つまり意味があることだと実感することで、学習性無力感を解消できるのです。
東京大学理学部情報科学科卒業後、同大大学院情報理工学系研究科にてコンピュータ科学を専攻。修了後はグーグルに入社し、Android、Chrome OSチームに所属。その後、2016年に竹内孝太朗氏(CEO)とモノグサを共同創業。CTOとして記憶のプラットフォーム「Monoxer」の研究開発に従事。