自分から進んで勉強をする子どもに育てるにはどうすればいいのか。記憶のプラットフォーム 「Monoxer」を研究開発する畔柳圭佑さんは「なにかを習慣づけるときには、恐れずにご褒美を活用したほうがよい結果をもたらします」という――。

※本稿は、畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を加筆再編集したものです。

大きなキャンディを手にうれしそうな少女
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子どものモチベーションを上げるには

「子どもに」と書きましたが、この内容は大人でも活用できます。自分以外の人のモチベーションを上げたいときに活用してください。

自分の子どもや部下のモチベーションを上げる、というテーマは長年研究がされてきた領域でもあります。ここでは記憶に関連した重要な部分を紹介しましょう。

(1)期待を持って接する

子どもや部下に対してモチベーションを持ってもらいたいと思ったときに知っておきたいのが、「ピグマリオン効果」です。

【エビデンス】

ネズミを使って迷路を解かせるという実験をするときに、ネズミを扱うアシスタントに「このネズミは優秀なネズミだ」と言って渡したケースと、「このネズミはダメなネズミだ」と言って渡したケースとでは、優秀なネズミと言って渡したほうが迷路を解く課題の成功率が高くなりました。

もともとネズミに差があったわけではなく、アシスタントが無意識のうちに優秀なネズミと言って渡されたほうをより丁寧に扱った結果、課題の成功率が上がったのです。

人間を対象にした調査でも同様の効果が確認されています。「今後知能が伸びる生徒」としてリスト化したものを教師に見せると、その後しばらくしてリストにあげられた生徒の知能が実際に伸びた、というものです。

期待+コミュニケーション

これに関してはさまざまな解釈がなされ、この効果を検証する実験が数多くおこなわれました。

その結果から共通して言えるのが、教師が期待を持つことで生徒ではなく教師の行動が変わるということです。

期待をかけている生徒に対してアウトプットの機会を多く与えたり、褒めたり、励ましたりという行動が、そうでない生徒に比べて多く観測されました。すると、生徒も期待に応えようとモチベーションが上がり、成績アップにつながったのです。

教師は意図して差別しようとしていたわけでは決してありませんが、期待を持つことにより自然と行動が変わっていました。期待を込めて相手に接することで、より多くの機会を与えたり、自然と適切なフィードバックを与えたりして、その結果として生徒の成績が向上したのです。

相手に対して単純に期待するだけでは意味がありません。相手が今なにをしているのかわからずに「期待しているよ」と声をかけても意味がないのです。

期待による成果を出すためには、学習するプロセスに関わり、適切な機会を提供することが重要です。どのようなポイントで詰まっているのか、どういったことを苦手としているのかを把握し、そのうえで期待を持ってコミュニケーションを取ることが大切なのです。

子供をほめる両親
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(2)ご褒美をあげる

子どもには、大人以上にご褒美が効きます。

「ご褒美で釣って勉強させるなんて」と、悪いイメージを持つ人が多いかもしれませんが、なにかを習慣づけるときには、恐れずにご褒美を活用したほうがよい結果をもたらします。

上手に活用すれば、はじめはご褒美目当てにやっていたことも、やっているうちに習慣化します。このあと詳しく説明しますが、はじめはご褒美のような外から与えられたモチベーションであっても、次第に「もっと知りたい」という内面からのモチベーションへと変化するケースもとても多いのです。

とはいえ、注意すべきポイントがあります。結果に対して報酬を与えてもあまり効果はなく、結果を出すためのプロセスに対して報酬を与えると効果が大きいことがわかっています。

学習について言えば、毎日決められた時間に学習したことや本を読んだことなど、結果を出すためのプロセスに対して報酬を与えましょう。

習慣化されたら「もの」から「言葉」へ

また、アンダーマイニング効果にも十分注意が必要です。

勉強が習慣化されているのにご褒美でモチベーションをアップさせようとすると、「もっと知りたい」「記憶することが楽しいからもっとやっていこう」という本当は持っていたはずの内面から湧いてくるモチベーションが損なわれてしまいます。

習慣化されてきていると思ったら、ものによるご褒美から、言葉で褒めるかたちに変えるタイミングです。

そのとき、褒める内容も、ポイントをちゃんと理解しておくことが重要です。ピグマリオン効果のところでも説明したように、ただ「頑張っていてえらいね」と言うだけでは逆効果にもなりえます。本人がどこを頑張っていたのかをきちんと理解し、そのポイントを褒めるようにしましょう。

(3)段階的に動機づけする

動機づけを考えるうえで「自律性」は重要な要素です。

動機づけにはいろいろなものがあります。「これができたら欲しかったゲームを買ってあげる」と約束したら頑張るという外から与えられるものを得ようとするモチベーションもあれば、ご褒美の逆で「勉強しないと叱られるからやる」というネガティブなことを避けるためのモチベーションもありますし、純粋に「楽しいからやる」というモチベーションもあります。

自分からやりたいと思う自律性がどれだけあるかでモチベーションの種類を整理できます。

モチベーションのはじめの段階として、「無動機づけ」があります。「特にやりたいと思わない」という状態です。

ここからひとつ上にあるのが「外的動機づけ」です。「やったらご褒美がもらえる」「やらないと叱られる」といったものが動機となるものです。

その次の段階が「取り入れ的動機づけ」と呼ばれるもので、「周囲に負けたくない」「友だちよりもできるようになりたい」「成績が悪いと恥ずかしい」といった周囲と比較することが動機となって行動するものです。

外的動機づけと比較すると自分の内部から出てくる動機ですが、周囲との比較なので、同じような成績の友だちや、勉強せずに一緒に遊んでいる友だちがいると「みんなと同じならいいや」と考え、動機づけが弱くなる可能性があります。

その次の段階の「同一化的動機づけ」は、「これをやるとよい高校、よい大学に行ける」「自分の将来のためになる」「夢を叶えるのに役立つ」といったことや、逆に「これをやらないと夢が叶わない」というように、行為と目的が同一化している状態です。

最後の段階が「内発的動機づけ」で、「新しい知識をつけることが楽しい」「そもそも好きだからやる」というように取り組むこと自体が目的となるものです。

動機づけの5段階
出典=『記憶はスキル

まずは「ご褒美」や「締め切り」から始めよう

外的動機づけから、取り入れ的動機づけ、同一化的動機づけ、内発的動機づけと進んでいくほど自律性が高く、動機づけの効果や継続性も大きくなります。

はじめから「好きだからやる」というところに持っていくのは難しいので、まずはコントロールしやすい外的動機づけを活用し、「ご褒美をもらえるから」「締切があるから」という段階からはじめるのがよいでしょう。

外的動機づけによって一歩目を踏み出せたら、周囲の人と比較して「負けたくない」というところに意識を向けたり、その人の将来にとって、この課題をやることがどれだけ重要なのかを話したりして、だんだんと自分の内面に近いところにモチベーションを持ってもらい、自律性の高い動機づけに変化させていくことがポイントになります。

こういった自律性によるモチベーションの分類を理解することで、アンダーマイニング効果の注意点についても理解いただけたのではないでしょうか。せっかく外的動機づけよりも自律性の高い動機づけがされているのに、ご褒美を与えてしまうとモチベーションが外的動機づけに上書きされてしまい、やる気をなくす原因となってしまうのです。

(4)親が姿を見せる

山本五十六いそろくの有名な言葉に、「やって見せ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」というものがあります。

この言葉で、自分でやって見せることが一番に来ているように、自分以外の人になにか影響を与えたいときは、まず自分がお手本にならないといけません。

自分自身の体験や他人からのフィードバックが動機づけやモチベーション形成にとても重要ではありますが、それだけでなく、周囲の人にほかの人が与えたフィードバックもモチベーションを形成する大きな要素になりえます。

誰かの発言が褒められていたら自分も発言したくなるし、ほかの人が怒られているのを見たら、自分は同じことをしないようにしようと思います。

家庭でも同じです。親が子どもに「毎日30分読書をしなさい」と言っているのに、親は時間があるときに読書しないでテレビばかり見ていると、心から推奨しているわけではないというメッセージとして子どもに伝わってしまいます。

子どもは周りの人間をよく見ているので、子どもに推奨していることと一貫性のある行動を親が取っていれば、心の底からそれをすることがよいことだと思って、自然とそのとおりにやろうというモチベーションが形成されます。

(5)学習性無力感を解消する

モチベーションを上げる方法を紹介してきましたが、なにをやってもモチベーションが上がらないという状況も起こりえます。なにをやってもやる気が出ない、なかなか集中して取り組めないというときに考えられるのが、「学習性無力感」です。

もとからやる気がなかったというわけではなく、勉強したけれど結果が出ないという経験を繰り返すうちに、「なにをしてもどうせ結果は変わらないんだ」と無気力な状態に陥ってしまうことがあります。

記憶においても同様で、記憶しようとしたけれど結果につながらなかったと感じてしまうと、記憶に対して時間を使うことは無駄だと思い、記憶することに対して消極的になってしまいます。

これは、実験でも明らかになっています。

【エビデンス】

犬をAとBのグループに分けて電気ショックを与える実験で、グループAの犬はボタンを押すと自分で電気ショックを止められる状態にします。グループBはAと電気の強さは同じですが、自分では止められないことを経験させます。

その後、別の場所で自由に逃げられる環境で電気ショックを与えた場合、グループAの犬は自分で逃げ出す行動を取りましたが、グループBの犬はその場にうずくまって逃げませんでした。

受けた電気ショックは同じでも、自分でコントロールできないと感じたグループBの犬は、自分の行動と電気ショックを受けることは関連しないと学習してしまったのです。これにより、電気ショックから逃れることに対するモチベーションを失ってしまいました。

このような学習は、犬だけでなく人にも起こります。解消するには、行動が結果につながる体験をするのが一番です。

「頭の良さ」は生まれつきではないと伝える

ただ、努力をしなくても点数が取れる簡単なテストではモチベーションが上がりません。自分の行動によって結果が変化したと心から思える体験をする必要があります。自分にとっては少し難しく、はじめは解けなかった問題が学習をすることで解けるようになったという経験です。

畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)
畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)

記憶の観点では、新しいものがちゃんと記憶できて、それを活用できたという体験をしてもらうのが一番手軽です。

頭のよさは生まれつきではなく、努力や学習によって変化するものだと伝えましょう。そのうえで、なにかを記憶するよい方法を教えたり、脳がちゃんと新しいことを学習できると教えたりすることで、学習に対するモチベーションがなかなか上がらなかった子どもが学習するようになることがあります。

学習することや記憶することは結果や成果につながる、つまり意味があることだと実感することで、学習性無力感を解消できるのです。