相手の考えをうまく引き出すには、どんな声がけをすればいいのか。東京大学大学院情報学環の安斎勇樹特任助教は「発言への心理的ハードルを下げるような『足場かけ』をするといい」という――。

※本稿は、安斎勇樹『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

発言への心理的ハードルを下げる声かけ

質問を正しく理解し、考えるモチベーションが湧いていたとしても、質問に対する自分なりの答えを形成し、意見として発言できるとは限りません。

よくあるパターンは、答えは頭の中に思い浮かんでいるものの、プレッシャーを感じていて「発言できない」ケースが考えられます。そのようなときは、発言することへの心理的なハードルを下げるための声かけをして、プレッシャーを緩和することが有効です。

ハードルを飛び越えるビジネスマン
写真=iStock.com/viafilms
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シンプルなやり方は次のように期待値を明確に下げ、頭の中に浮かんでいる意見を出しやすくする方法です。

「無理に良いアイデアを言おうとしなくてよいですよ」
「いま頭の中にパッと浮かんだことがあれば、なんでもよいので教えてくれませんか?」

もし相手が発言をすることで、組織における「自分の評価」が脅かされることを気にしているとすれば、その不安を払拭してあげることも有効でしょう。

注意を引くためのアプローチの一つである「共感」を応用して、相手の心の声を代弁して「変なことを言うと、評価が下がるかもしれないと不安に思うかもしれませんが、そんなことはないので安心してください(笑)。むしろ『変な意見』こそ、大歓迎です!」などと、場の心理的安全性を高める声かけが有効でしょう。

仮定法を用いて、「立場の転換」を試みる

応用的な足場かけのテクニックとして、アフターフォローで「仮定法」の制約を後から追加する方法もあります。

たとえば、「『美しい広告』とはどんなものでしょうか?」というシンプルな質問を例に考えます。この質問で、相手の頭のなかにはあれこれ意見が浮かんでいるものの、価値観の根底に関わる深く複雑な質問であったために、相手はうまく答えがまとめられず、口をつぐんでいます。

そこで、仮定法を用いて、答えやすくなる「立場の転換」を試みます。

投げかけた質問

「『美しい広告』とはどんなものでしょうか?」

仮定法によるアフターフォロー

(例)「難しければ、視点をちょっと変えてみましょうか。もしあなたがユーザーだったら、なんと答えますか?」
(例)「いろいろな要素があるので、考えにくいかもしれませんね。もしあなたがデザイナーだったら、なんと答えますか?」

このように「意見を答えることが難しい」という心情に共感しつつ、仮定法の制約を加えた足場かけをすることで、発言のハードルを下げることができるでしょう。

この「ハードルを下げる」足場かけのアプローチは、アフターフォローにおいて多用することになります。ぜひ身につけておきましょう。