自分が言われたら嫌なことを子どもに言っていた

そこでアプローチを変えてみたところ、13歳の娘はフランス映画にハマっていて、10歳の息子はロック音楽が大好きなのだとわかりました。同時に、彼女はこれまで子どもたちの世界を共有してこなかったことを改めて痛感したそうです。

それからは子どもたちと一緒に映画を観たり、音楽を聴いたり、感想を話し合ったりするうちに、少しずつ子どもたちとの関係性が変わっていったそうです。彼女から子どもたちへと一方的に注がれていたエネルギーの流れが変わり始めました。それと同時に、親子間に相互的な関係性が生まれたのです。

さらに彼女は、「子どもたちに何を、どんな言葉で伝えていたのかを思い返してみて、自分がもし誰かに同じことを言われたらどう思うかを考えてみたんです。そうしたら、自分だってそんなことを言われたらやる気が出ないに決まってる! ということに気づいたんです」と話してくれました。とてもパワフルで、美しい気づきですね。

小学生の息子を叱る母親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

子どもが20歳になった時にどんな関係でいたいか

わたしにも幼い息子がいます。彼が生まれる前、友人たちからもらった子育てアドバイスの中で最も貴重だったのは、「あなたの元にやってくる赤ちゃんを一端の人間として迎えてあげて、赤ちゃんの好み、赤ちゃんが望んでいること、赤ちゃんが必要としていることをちゃんと認識してあげて」というものでした。生まれたばかりの赤ちゃんは非力ですし、うまくコミュニケーションを取れません。それでも親の思いどおりに扱っていいわけではなく、ひとりの人間として尊重されるべきだ、というのです。

これがわたしたち夫婦の子育てにおいての鍵となりました。したがって、息子が誕生する前に、親になるということについて夫婦で話し合い、子育てに関するあらゆる思い込みを整理した上で、子育てのインテンション(意図)を明確にしました。

具体的には、息子が20歳になった時にどのような関係でいたいかを考えました。20歳という年齢ならば、すでに独立していてもおかしくありませんし、親に付き合うか、付き合わないかは彼自身が選択することです。ならば、20歳の息子がオヤジであるわたしにいろいろと相談したい、一緒に旅行に行きたいと思うような良好な間柄であってほしいと願ったのです。さらに、この将来像を目指す上で、今わたしが息子にできること、言うことはなんだろう? と考えるようにしました。

ですから、息子が何かをしでかして、怒りが込み上げてきた時には、自分自身に問うようにしています。今どんな言葉を投げかけたら、15年後、20年後の良好な関係が築けるだろうか? と。

もちろん常に正しい判断を下せるわけではありません。この自問自答によって感情を抑えることができたりも、できなかったりもします。それでも、失敗するよりは成功することの方が多いという自信はあります。