未就学児のうちは座学をさせなかった

またわが家では、未就学児のうちに、簡単な漢字も含めた文字の読み書きのほか、足し算、引き算、九九、簡単な割り算の概念もできていましたが、これらのインプットを座学でやらせた時間は1分たりともなく、上述の絵本のほか、3兄弟でのおやつの数や、送り迎えで見かける車のナンバープレートの利用など、本当に日常の生活の中で、送りむかえや散歩をしながら、私が手書きでメモをしている時に横でまねさせながらなど、ながら作業として、軽く、かつ、繰り返し行っていました。

一方で、机に座って何かに取り組む、という習慣づけが必要とは考えていましたので、アウトプットの時間で机に座り集中する時間をつくりました。具体的には、覚えた文字で、遠方に住む祖父母へ手紙を書く習慣を付けるとか、すでに理解している計算などについて、ゲームのような形式で書かせるようなことをしていました。

未就学児が座学をする目的

未就学児が座学をする目的はなんでしょうか。私自身は、「机に向かって、正しい姿勢で集中して何かをする習慣を付け始めること」だと考えていました。何か知識を得るためのものだとは考えていなかったのです。

効率的にこの習慣を付けるには、「知識のインプット」を、ただひたすら「やるべきことなのだ」という意識のもとで習慣づけようとするよりも(本当に子どもがそれを楽しんでいるのであればいいですが)、日常的にインプットを行って、“わかったこと・できるようになったことの”アウトプットの時間として机に座る習慣を付けることのほうが、親子ともに気持ちのゆとりが生まれますし、子どもにとっては、自己肯定感や先々の勉強に対する主体性にプラスに影響すると考えます。

子どもの教育にとって何が大事か、どんな教育をしていけばいいのかは、非常に難しい問題です。ただ、正しい情報(エビデンスベースの教育法)が何かを常に意識しながら、有象無象の教育市場に振り回されることなく、また、他の親子と比較することなく、親と子ども両方が心身ともに健康でいられるような、“わが家にとっての適切な教育環境”を見つけることなのだと思います。

参考文献
・Naja Ferjan Ramírez, Sarah Roseberry Lytle, and Patricia K. Kuhl, Parent coaching increases conversational turns and advances infant language development,PNAS, 117 (7) 3484-3491;(2020)
・L. Fenson et al., Variability in early communicative development. Monogr. Soc. Res. Child Dev. 59, 1–173, discussion 174–185 (1994).
・Dale, S. B. & Krueger, A. B. (2002). Estimating the payoff to attending a more selective college: an application of selection on observables and unobservables. The Quarterly Journal of Economics, 117(4), 1491-1527.
・Makiko Nakamuro & Tomohiko Inui (2013). The Returns to College Quality in Japan: Does Your College Choice Affect Your Earnings?

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。