仕事と家族以外の交流を持てなかった男性が、両方を失ったら…

しかし、男性は仕事上のつきあいなどのお膳立てがない状態で、ゼロから友人をつくるのが苦手です。加えて、性別分業の下では人生の大半の時間を仕事にとられるわけですから、交流範囲も職場と家族に限られてしまいます。しかもこの2つは、いずれも年を取るとともに失われやすいものです。これが、男性が孤独・孤立に陥りやすい要因ではないでしょうか。

このように、男性の孤独感の背景には性別分業があり、それは女性だけでなく男性にも不利に働いているのです。「ジェンダー格差は女性の話であって自分には関係ない」と思っている男性もいるでしょうが、決してそうではありません。ゆくゆくはご自身の孤独感につながっていく可能性があるのです。

性別分業が解消されず、男性が職場と家族だけにコミットするような社会のままでは、男性の孤独感もまた解消されないでしょう。仕事と家族以外の交流関係を持てないまま過ごしてきた男性が、年を取ってから両方を失ったらどうなるか。ジェンダー格差は社会においてさまざまな表れ方をするのだと、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

単身者にとってのジェンダー平等とは

白書でもうひとつ気になった点は、家庭におけるジェンダー問題を語る際、置き去りにされている人がいるのではないかということです。例えば「イクメン」という言葉を聞くと、配偶者のいる男性を思い浮かべる人がほとんどでしょう。現実的にはシングルファーザーもいるのに、です。

家庭においては、ジェンダー格差は解決していくべきさまざまな問題のひとつでしかありません。真に解決すべきなのは「ケア」の問題だと思います。子どもや高齢者など家族の中でケアが必要な人を「依存者」だとしましょう。依存者を誰がケアするかと考えたとき、ジェンダー問題においては、夫婦が平等に分担すべきだという意味で「ジェンダー平等」という言葉が使われています。

しかし、これから生涯未婚率はますます高まるでしょうし、シングルマザーやシングルファーザーも増えていくでしょう。こうした人たちは、自身が担っている子どもや親のケアを、ジェンダー問題で語られてもピンとこないはずです。というのは、依存者のケアを担ってくれる配偶者がいないからです。

白書が明らかにした通り、家族の形は多様化しています。今後、ジェンダー問題は配偶者がいない人のこともきちんと考えて語る必要があると思います。それぞれの家庭においてどんな状態をジェンダー平等と言うのか、個別に見ていく姿勢も必要でしょう。

今回の白書では、恋愛観・結婚観の変化や配偶者控除に関する話題が注目されましたが、男性の孤独感に関する問題と、単身者やひとり親家庭におけるケアの問題はまだあまり議論されていません。

いずれも、世帯構造の変化に伴って、これから大きな社会問題になっていく可能性があります。この機会に、皆さんにもぜひ問題意識を持っていただけたらと思います。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。