「妻の座」の優遇措置と母子世帯の貧困は表裏一体
一方、手のひらを返すがごとく、「妻の座」にいる女性には、配偶者特別控除、相続の寄与分制度に加えて、新たな優遇制度が作られた。
それが遺族年金の充実だ。遺族年金は国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなった場合、その人によって生計を維持されていた遺族に支給されるものだ。
1985年の年金制度改革により、従来の国民年金法の母子年金や遺児年金を「遺族基礎年金」に統合。死亡した夫が厚生年金の被保険者であれば「遺族厚生年金」も支給されるなどの「遺族年金制度」を導入、これまでより手厚く、充実した保障が用意されることとなった。
同じ母子世帯でも、死別という夫を亡くした妻には手厚い保障を用意し、離別という家庭から飛び出した女性には、唯一の生命線である児童扶養手当を減額するという、この露骨過ぎる差別。平気で差別をする国で生きていることに、暗澹たる思いが拭えない。
藤原教授はこの分断策を強く非難する。
「すなわち、これら一見して女性を優遇しているかに見える社会政策は、妻としての女性とそうでない女性を分断し、女性の経済力の獲得を阻害し、女性の貧困問題を覆い隠すものであり、妻の座の優遇措置と母子世帯の生活困難は表裏一体である」(前掲論考)
正直、怒りなしで先に進めなくなっている。私たちシングルマザーの生活苦は作られたものなのだ。国によって生命線を脅かされるばかりか、顧みなくてもいい存在であると言われているに等しいわけだ。
だから、ここが貧困元年なのだ。藤原教授はこう結論づける。
「そして、女性にとっては、一方で雇用分野の男女平等を標榜しつつ、他方で家族責任の分断・性別分業の強化・非正規雇用の拡大の道を開き、妻の座の経済的優遇と母子世帯への給付削減を行った1985年こそ『貧困元年』である」(前掲論考)
国により強いられた貧困を、私たちシングルマザーは生きているのだ。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。