目に見えて子どもの状態が安定した
「息子は今も、私がアクセサリー販売の仕事をしていると思っています」
しかし、仕事とはいえ、本番行為をすることに抵抗がなかったとは言えないだろう。
「最初の頃は苦痛でしたし、嫌だなと思っていました。でも結局、嫌だなと思ったところで、他にはやれることもないので。じゃあ、どうやって生活していくのか。なので、嫌だなと思うことが、もう無意味だなと思うようになりました。嫌なお客はいますが、そこまで変なことをされたことはないし、お店が女性を守ってくれますから」
真希さんが夜、家にいるようになって、子どもの様子に変化が生じた。
「何よりよかったのは、目に見えて、子どもの状態が安定したことです。夜、ぐずって寝ないこともなくなったし、保育所に行くことを嫌がらないようになりました」
母子世帯の貧困率は5割を超え、シングルマザーは昼だけでなく、夜も働くなど、二重働きを余儀なくされることが多い。そうなると子どもは夜、1人で家にいることになる。それが子どもの成長にいかに不安定な影を落とすのかは、想像に難くない。
真希さんが優先したのは、子どもの心の安定だった。
このときから真希さんは、本番行為を行う“セックスワーカー”として生きている。
ここで、「売春」の是非を問いたくなる人も出てくると思う。性的行為と引き換えに金銭を得る行為を廃止したい人たちは、真希さんが行っているのは女性への暴力、ジェンダー差別を認める行為だと考えているようだ。セックスワークは貧困に晒された女性がしょうがなく行うものであり、主体的にセックスワークに従事する女性はいないと。
でも真希さんは「嫌だな」と思っても、生活のために自分でこの仕事を選んだわけだ。その考えでいくと、自らの意思で選んだ人たちのことも、“被害者”だと一括りにしてしまう。それは、その人の自由意志を無視した、むしろ差別なのではないだろうか。
真希さん自身も、こう語っている。
「よくホストクラブへの借金で無理やり落とされるとか、世の中がそういうイメージになっているけど、私はそういうことをされたことがないですし、自分の意思でやっている子が多かった。ダンナがヒモという人も多かったけど、強要されて働いているわけじゃなく、自分で選んで働いているわけだから」
売春と言われる行為すべてに虐待や強制があるわけでもなく、店側が金で支配・服従させているわけでもないということだ。逆に店は、問題のある客から女性を守っている側面もあるということが、真希さんの実体験から浮上する。