SDGsやサステナビリティは女性が力を発揮しやすい

世界的に、起業でもSDGsに関連する分野が伸びています。ジェンダーに直結するフェムテックはもちろん、サステナビリティ(持続可能性)や、教育・子育て、介護などのケア関連の分野は、今のところ男性よりも女性の方が身近です。

誤解してほしくないのは、決して女性の方がこうした分野に「向いている」というわけではなく、「これまで女性と近いところにあった」ということです。逆にこれらは、男性にとっては女性に比べて距離が遠い。

これまでの市場の価値観は、規模を競うことがすべてでした。売り上げや時価総額、社員数などの大きさを競っていたわけです。しかし、世界的に評価軸が変わって、今の潮流は、SDGsのように、サステナビリティやレジリエンス(回復力や弾力)が求められます。拡大成長を目指してきた従来型の働き方とは、合わなくなっています。

今は、あらゆる環境が目まぐるしく変化し、いろいろな要素が複雑に絡み合って、先行きが不透明なVUCAの時代だと言われます。そうなると「とにかく拡大成長を目指そう」という姿勢よりも、「毎日のように不測の事態が起きて、あちこちで変化が起きているけれど、全体で見ると快適な状況が維持できている状態を目指そう」という姿勢の方が強い。これって、子育てに似ていますよね?

世界の評価軸が、資本主義的な拡大成長重視型から、SDGsやVUCA的なものに変わってきているんです。そしてそれは、女性がこれまで培ってきたマネジメント力を発揮しやすかったり、女性の方が先行している分野でもある。起業だけでなく、企業の中でSDGsに関連する事業に取り組むときも、もっと女性が主導した方がうまくいくように思うんです。

僕は「女性の味方」じゃない

これだけ「女性が」「女性が」と言っていると、「女性の味方なんですね」と勘違いされるんですが、僕は別に「女性の味方」のつもりはないんです。単に、十分に価値が理解されていなくて「もったいない」と思うものの可能性を世に出したいだけ。それが今はまずは女性、というだけなんです。その先には外国籍の方、LGBTQ、障がいのある人、中高生などたくさん広がっています。起業家の属性はもっと多様になったほうがいい。

僕はよく「エンパワーじゃなくてアンカバー」と言っているんです。「力を与える(エンパワー)」ことではなくて、「アンカバー(隠されていたものに陽の目を当てる)」することが必要なんじゃないか、と。もともと持っている力を発揮できていない人が、力を発揮できるように解放したいのです。

だって、せっかくの力が社会に活かされていないのは、もったいなくないですか? そういう可能性がちゃんと「世に出る」のが本当の「出世」だと思います。

僕は昔、DJをやっていたんですが、その時の感覚とあまり変わらないんです。

「この曲、最高じゃね?」と思って自分が選んだ、まだ人に知られていないマニアックなインディーズの曲でフロア中が湧く。「初めて聴いたけど、何ていう曲ですか?」と聞かれると、テンションが爆上がりするんです。そんな感覚と同じです。

「もったいないものを世に出したい病」なんですよ。

構成=石井広子

若宮 和男(わかみや・かずお)
起業家、アート思考キュレーター

建築士としてキャリアをスタート。その後東京大学にてアート研究者となる。2006年、モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップとして『uni'que』を創業。2019年には女性起業家輩出に特化したインキュベーション事業『Your』を立ち上げ、新規事業を多数創出している。著書に『ハウ・トゥ アート・シンキング』『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル』(いずれも実業之日本社)などがある。