自分は親から言われたことがないけれど

私が子どもの頃の親世代は、それほど愛情表現をしませんでした。特に関西人は、母親が子どもをいじったり、笑いにしたり、むしろ褒めたら、そっちのほうがくすぐったい。そういうカルチャーが前提なので、好きとか、愛しているとか、生まれてきてくれてありがとうなんて、とてもじゃないけれど言えない。私自身、親から言われたこともありません。

でも私は、やはりそれでちょっと寂しい思いをした覚えもありますし、子ども心に愛されているのかなと不安がつのって、親の愛情を試すために何か悪さをしたこともあります。

親になった今、私の子どもへの接し方は、一見甘やかしに見えるかもしれません。でも私は子どもには愛情に満たされたうえで、自分で選択できる子になってほしいので、愛情表現の質と量には、すごくこだわっています。

愛情を出し惜しんだり、表現を怠けたりして、あのときにもっと愛しているって伝えればよかったと、後悔するようなことはしたくないのです。

子どもの不登校で悩む親御さんは、子どもに「学校に行っても行かなくても、あなたのことは大好きだよ、愛しているよ」と伝えるだけでも、何か変わるのではないでしょうか。

「子どもが学校に行きたくない」と言い出したときは、もしかしたら親が子どもに愛情を伝えるチャンスなのかもしれません。

校正=池田純子

伊藤 東凌(いとう・とうりょう)
両足院 副住職

京都「両足院」副住職。両足院で生まれ育ち、3年間の修行を経て僧侶に。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『月曜瞑想』(アスコム)がある。