上皇陛下はその後も、皇太子時代に5回、天皇になられて6回、合計で11回も沖縄を訪れておられる。ご即位後、初めて訪れられた平成5年(1993年)4月25日の第44回全国植樹祭のおりには、集まった人々が手に手に日の丸の小旗を振って、陛下への歓迎の気持ちを表した。普通、植樹祭で日の丸の小旗を持つことはないから、県民の強い思いがこうした行動につながったのだろう。

悠仁親王殿下の襲撃未遂事件

このような過去の事例を見ると、残念ながら皇室も決してテロとは無縁ではなかったことが分かる。

現在の皇室に直接かかわる不穏な出来事は、平成31年(2019年)4月26日に起こっている。秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下が通学しておられたお茶の水女子大学附属中学校に不審人物が侵入し、殿下の教室の机の上に果物ナイフが2本置かれていた事件だ。犯人は「刺すつもりだった」と供述していた。

この時は、たまたま体育の授業で殿下が教室におられなかったから大事に至らずにすんだが、普通の授業が行われていたら、一体どうなっていたか。あまりにも杜撰ずさんな警備態勢に多くの人が衝撃を受けた。

女性天皇の排除はテロを誘発しかねない

現在の皇室典範のルールでは「女性天皇」も「女性宮家」も認めていない。そのために、内親王方がおられても、天皇陛下の次の世代の皇位継承資格者は悠仁殿下ただお一人だけで、皇室の将来が極めて不透明になっている。たったお一人の安否がそのまま皇室“そのもの”の存亡に直結するというのは、どう見ても異常事態ではないだろうか。

これは率直に言って、テロの“威力”を極大化させ、この上なくテロを誘発しやすい状態だろう。皇室典範の見直しは、こうした観点からも必要だ。

ところで直接、天皇陛下ほか皇室の方々を護衛し、皇居などを警備するのは皇宮警察の任務だ。“テロのハードル”が下がったと見られる現在、その責任はいよいよ重大と言わねばならない。しかし、近来、皇宮警察についてしばしば不祥事は耳にするのはどうしたことだろうか。改めて言うまでもないが、奈良県警の失態を皇宮警察が繰り返すようなことは、決して許されない。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録