「出生率を上げたい」国の思惑

ではこうした傾向は、未来にどんな影響をおよぼすのでしょうか。政府は出生率の低下やそれを引き起こす未婚化・晩婚化に危機感を抱いていますから、今回の白書でデート経験率にまで踏み込んだのは、「婚姻率や出生率低下の原因の一部は若者の交際不活発化にもあるのかもしれない」ということを暗に示したかったのでしょう。

若者の性行動の不活発化がどの程度婚姻率低下に結びついているのかについては、前出の林雄亮先生の考察があります。林先生は東京大学社会学研究所が実施したパネル調査の結果を用いた分析から、「若い世代ほど高校生、大学生時代に交際経験が乏しくなり、その後20代を通してその傾向が続いていることが明らかになった」としています(林雄亮他編『若者の性の現在地』勁草書房、12頁)。

恋人がいないことへのプレッシャーが弱まった

やはり若者の性行動がそれほど活発ではなかった1970年代には、それでも職場や近所、親類にたいてい「おせっかい」を焼く人がいて、独身者がいると結婚を勧めたり相手を紹介したりしていたものでした。結婚に向けた世間的なプレッシャーも強く、「年頃になったら結婚して当たり前」と考える人が多かったはずです。1980年代にはすでに未婚化は進んでいましたが、この期間前後に「失われた結婚」のうちかなりの部分が、職縁結婚の減少によって説明できる、と専門家は指摘しています(岩澤・三田「職縁結婚の盛衰と未婚化の進展」『日本労働研究雑誌』535号)。

他方でこの間、恋愛を重視する雰囲気が強くなり、また出生率の低下も注目されていなかったこともあって、「結婚離れ」が社会問題として話題になることもそれほどありませんでした。

今は結婚しなくても恋人がいなくても、以前に比べればプレッシャーが小さくなった可能性があります。若者の選択の自由が広がったのはいいことであり、その自由はもちろん尊重されるべきです。

しかし、一方で交際や性行動の不活発化が未婚化・晩婚化、ひいては出生率の低下に影響することが考えられる以上、政府としては個人の選択の自由をあまり損ねない範囲で現状を変えていきたいと考えているのでしょう。