「草食化」では、この変化を説明しきれない

こういった変化を「草食化」と呼ぶこともある意味ではできると思います。ただ、部分的には女性の方に不活発化が目立つこと、特に若年女性の間での「性的関心をもった経験」割合の著しい低下が見られることを考えると、主に男性を念頭に使われることが多い「草食化」という言葉で最近の動向を表現することはあまり的確ではないかもしれません。

「青少年の性行動全国調査」およびその結果の分析、性行動の不活発化の解釈については、社会学者を中心とした研究グループが成果(林雄亮他編著『若者の性の現在地』勁草書房など)を発表していますので、詳細についてはぜひそちらをご覧ください。研究グループは、一部では逆に性行動の早期化がみられること(経験しない層との「分極化」)、女性において性への関心の低下が非常に目立つことなど、注目すべき論点を多数提示しています。

不活発化の原因は…

不活発化の原因については、ピークが2005年調査時点であり、また調査結果の分析から、部分的にはインターネットの普及によるものではと示唆されていますが、推測の段階にあり、確かなことはまだわかりません。今のところ、「ネット上の情報や交流で満足するようになったから」、「友だちや先輩の性に関する経験談をリアルで聞く機会が減ったから」など、さまざまな解釈が出ています。

スマートフォンを使ったアジアの若手女子学生
写真=iStock.com/metamorworks
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ネット上の一部では、コロナ禍のせいだという意見もあります。でも、新型コロナウイルスの日本での流行は2020年以降ですから、それでは2005年から低下していることの説明がつきません。また、「若者が恋愛しないのはお金がないから」という意見もありますが、お金がないことがそれほど大きな障害にはならない高校生のデート経験率も(少なくとも)2005年から2011年にかけては下がっているわけですから、これだけだと20代の行動変化の一部は説明できても、若年層全体の趨勢を説明できるわけではありません。

これは私見ですが、日本の交際文化、あるいはその「欠如」は背景的な一つの要因になっていると思います。日本は伝統的に「カップル文化」が弱く、欧米のように「どこにいくにせよカップル単位」というようなことはありませんでした。1980年代後半ころからは、統計的にも「結婚は先延ばし、恋愛は重視」のような傾向が見られ始めます。一時的にカップル重視の風潮が広がり、大学生活でも「彼氏・彼女がいないこと」がネガティブに感じられる状況があったと思いますが、ただこれはその時代(バブル経済の影響もあったかもしれません)の一過性の出来事だった可能性があります。

他方で、性行動の傾向が「70年代当時に戻りつつある」という見解は、違うでしょう。1970年代の日本では、若者の交際や婚前交渉は控えめであるのがよしとされる価値観がまだあったように思います。「バブル期を経てそうした価値観が変わったが、現在は控えめであるべきという昔の価値観に戻っている(保守的な価値観が復活した)」わけではないでしょう。あくまで別の原因が模索される必要があります。