女性たちの自己肯定感の危機
「良いお母さんにならなければならない、私がしっかりしなきゃいけないという意識にとらわれていると、自分自身が苦しく、家族にも強要してしまいます。けれど家が片付くことで気持ちにも時間にも余裕ができるから、自分のことを少し許せるようになって、家族の愛情も受け入れられるようになります。すると表情が柔らかくなるし、肩の力が抜けて、本来の自分に戻れるんですね」
職場でも家庭でも精いっぱいがんばって、キャリアを築いてきた女性たちを見ていると、実は自己肯定感が低いことを感じる。家を片付けていたら、若い頃に取った資格の書類やスーツなどが出てきて、「私はこんなにがんばっていたんだ」と胸が熱くなったという人。幼い子どもが手伝ってくれる姿、「ママ、がんばってね」と書いてくれた手紙を見たときに泣いてしまったという人もいる。西崎さんもそんな声を聞く度、この仕事をしてきて良かったと心から思えるという。
片付けをして不幸になった人はいない
「片付けをして不幸になった人は見たことがないんですよ。彼女たちは片付けの過程で自分の過去と向き合い、本当はこんなことがしたかったんだということに気づく。私は片付けのトレーニングをするだけではなくて、片付けを通じて女性たちが人生を切り開くサポートをしているのだと考えています。私の人生の困りごとが誰かの役に立っているのはすごくうれしいですね。」
専業主婦歴20年の西崎さんが48歳で起業したとき、ある人に「ずっと専業主婦だったあなたが50手前で起業できるほど世の中は甘くない」と苦言を呈された。それでも自分には愛する子どもたちがいて、一人で育てなければという目標があったからがんばれた。自分も「帰りたくなる家」をつくり、幸せな家庭を築くこともできた。だからこそ、今は「片付け」の仕事を通して、多くの女性たちに幸せになってほしいと願っている。
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。