決め手になった娘の一言

十数の職を転々としたサンダースですが、ガソリンスタンド経営には何かピンと来るものがあったようです。あきらめが悪いサンダースは、新しいスポンサーを見つけ、同じケンタッキー州の別の場所で再びガソリンスタンドを開きます。

前回のお店とは一つだけ違う点がありました。小さなカフェを併設したんです。

サンダースは、ガソリンスタンドに来る客の多くがお腹を空かせていることに気づいていました。今の日本のように、あちこちに飲食店があるわけではありませんから、長時間の運転でドライバーは空腹になります。

サンダースは、家族にもそういう話をしていたのかもしれません。あるとき、娘さんがこう言ったそうです。

「お父さんの作るごはんはおいしいから、お客さんに出してみたら」。

この一言が決め手になり、サンダースはガソリンスタンドの隣に軽食がとれるカフェを出すことにしました。もっとも、「カフェ」といっても物置小屋に椅子を6脚、テーブル一つを置いただけですが、名前だけは立派に「サンダースカフェ」と名づけ、サンダース自ら厨房に立ちました。

カフェのメニューは、豆料理にマッシュポテト、グラタンといった素朴な家庭料理ばかり。中でもドライバーたちから人気が高いメニューがありました。それが、フライドチキンです。

子供のころにお母さんから教わった思い出のレシピ

鶏肉に衣をつけて油で揚げたフライドチキンは、別にサンダースや彼のお母さんの発明したものではありません。アメリカの南部ではよくある料理でした。

大衆食だからこそ、裕福ではないサンダース家でも食べていたわけですが、サンダースはお母さんのレシピに基づいて、非常にこだわってフライドチキンを作りました。スパイスとハーブを混ぜた小麦粉を鶏肉にまぶし、油で30分以上かけてじっくり揚げる。すると、香り高くてジューシーな、とてもおいしいフライドチキンになるのです。

これこそが、あのフライドチキンの始まりでした。

おいしいフライドチキンを出すカフェつきのガソリンスタンドはケンタッキー州の名物になり、大繁盛。それを見たサンダースはガソリンスタンド事業を辞め、カフェ一本でやっていくことにします。物置小屋から始まったサンダースカフェはどんどん成長し、数年のうちに大きなレストランになり、支店もいくつか出すくらいに成長しました。