「ご家族総出の養蚕作業」が意味するもの
このたび、天皇陛下ご一家が皆様総出でご養蚕に携わられたことは、成年をお迎えになった敬宮殿下が早速、皇室のお務めに積極的に取り組もうとされるお気持ちがあってこそ、可能になったはずだ。これはまことに心強い。しかも天皇陛下ご自身が、そのことを前向きに受け止めておられなければ、決して実現していない。
ご家族総出のご養蚕作業が行われたことで、皇室の在り方にもう一つ素敵なスタイルを付け加えることになった。
平成時代に上皇陛下と上皇后陛下がご一緒に収繭作業に当たられた前例を踏まえ、“令和流”ではご一家総出でより幅広い作業をなさる新しい例を開かれた。これによって、将来もし女性天皇が即位された場合でも、男女の役割分担を固定的にとらえて、無用な混乱を招く心配はなくなったと見てよいだろう。一般のメディアではほとんど気づかれていないようだが、あるいは、天皇陛下はそうした可能性もあらかじめ考慮された上で、さりげなく一つずつ手を打たれているのではないか。
日本国憲法を制定する際の議会において、憲法担当の国務大臣だった金森徳次郎氏が「象徴天皇」をめぐる答弁の中で、次のように述べていた(昭和21年[1946年]6月25日、衆議院本会議)。
「天皇を以て憧れの中心として国民の統合をなし、その基礎に於て日本国家が存在して居ると思うのであります」と。
皇室の伝統的なお務めに、ご家族そろって仲睦まじく取り組まれる天皇陛下ご一家のお姿は、まさに国民にとって「憧れの中心」と表現しても、決して言いすぎではないだろう。
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」