禅とマインドフルネスの垣根
ここ数年の間で日本でもよく耳にするようになった「マインドフルネス」は、禅から宗教色が排除されたアメリカ発祥の瞑想法などとも紹介され、逆輸入のような形で日本にもブームをもたらしました。
しかし、私の中で禅とマインドフルネスの間に垣根はありません。瞑想という大きな傘の下に、禅があり、マインドフルネスがあり、ヨガがある。瞑想へのアプローチの仕方がそれぞれ異なるだけで、瞑想という大きな目的は同じです。
ではなぜ、マインドフルネスがブームになったのかといえば、ビジネス・メディテーション(瞑想)の要素がクローズアップされたからではないかと推測します。そのきっかけを作ったのが、検索エンジンでおなじみのグーグル社です。
チャディー・メン・タンというグーグルのエンジニアが、従業員の「集中力向上」、「ストレス解消」、「チームワークの向上」のために、仏教の瞑想の要素を取り入れた「サーチ・インサイド・ユアセルフ(以下、SIYプログラム)」を開発しました。
グーグル社内に「瞑想ルーム」がある理由
私も禅の指導という形で、茶道を通してこのSIYプログラムに関わりましたが、基本的には心を落ち着かせ、思考を整理し、集中力を高めることで仕事の能力や能率をアップさせるというものです。
また、グーグル社内には社員が自由に使える瞑想ルームがありますが、ここで他の社員と一緒に座ることで、周囲の人たちとの共感・協調といったものが芽生え、チームワーク意識の向上にもつながります。
瞑想というのは、そのとき湧き上がる感情をとらえることもできれば、イメージトレーニングによって頭の中を整理することもできます。SIYプログラムは、双方の要素をバランスよく取り入れたプログラムだと考えるとわかりやすいでしょう。
仕事をしていると、同時進行でいろいろなことに対処しなければならず、時間との勝負で焦るあまり空回りしてしまうこともあれば、考えすぎて迷宮に入り込んでしまうこともあります。
詰め込みすぎた頭のバケーション。マインドフルネスは、そんな効果が期待できます。
目の前の仕事からいったん離れ、頭の中をリセットするとそこに空間ができ、新しいアイデアの入る余地が生まれる。このような経験が、マインドフルネスはクリエイティビティを向上させるといわれるゆえんです。
仕事で行き詰まった頭のリセット。心の休息。新しいアイデアの源。疲れ切って思考停止に陥る前に、自分らしい瞑想のやり方を手に入れましょう。
ベストセラー『般若心経入門』の著者で名僧の松原泰道を祖父に持つ。コーネル大学でアジア研究学の修士号、宗教学博士号を取得後、カリフォルニア大学バークレー校仏教学研究所、スタンフォード大学HO仏教学研究所を経て、現在に至る。グーグル本社で禅や茶道の講義をするなど、マインドフルネス界からも注目を集めている。アメリカと日本を行き来しながら、禅とマインドフルネスの橋渡し的存在として、国籍や人種、宗教を問わず人々の「心の救済」にあたっている。