出産前の退職で失うものは大きい

なぜ出産ベースの女性の育児休業取得率が重要かというと、育児休業給付金が出産直後の家計を支える役割が年々大きくなっているからだ。出産直前まで職場に在籍し、(産前産後休業を経て)育児休業を取得すると、雇用保険から最長で2年間、従来の給与の50%~67%が育児休業給付金として支給される。その受給額は、女性の育児休業取得者の平均で1人あたり166万円(最長2年間の合計額、2020年度)に及ぶ(図表2)。しかし、出産前に退職していれば、たとえ出産後2年以内に再就職したとしても、育児休業給付金は1円も支給されない。

女性の育児休業給付額の推移(1人1回の出産あたりの平均額)
出所=厚生労働省「雇用保険事業年報」をもとに大和総研作成

出産ベースの女性の育児休業取得率は雇用形態により大きな違いがある。内閣府の資料(※2)によると、2010年~2014年に第1子を産んだ女性の出産ベースの育児休業取得率は、正規職員では59.0%だったがパート等では10.6%にとどまっていた。この差は、本人の希望の違いを反映したものなのかもしれないが、結果として、正規職員よりも所得が少なく雇用が不安定なはずのパート等のほとんどの人には、育児休業給付金が支給されていない実態がある。

政府は女性の育休取得率向上にも力を入れるべきだ

政府には、男性の育児休業取得だけでなく、女性の育児休業取得(出産前後の就業継続)の支援も継続して行っていただきたい。また、子育て支援の観点からは、育児休業の有無に関わらず0歳や1歳の子を家庭でみている世帯に対して一定の所得保障を行う必要もあるだろう。出産ベースの女性の育児休業取得率が45.6%にとどまるという事実は、出産後の女性の就業継続が未だ容易ではないことと、育児休業給付金による子育て支援を受けられていない世帯が、特に、非正規雇用など所得が少なく不安定なはずの女性がいる世帯に多くいることを浮き彫りにしている。

<参考文献>
(※1)株式会社 日本能率協会総合研究所「厚生労働省委託事業 令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書 〈離職者調査〉」(令和3年3月)
(※2)「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び出産・育児と女性の就業状況について」(「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2018」(平成30年11月 内閣府男女共同参画局)、pp.7-14)

是枝 俊悟(これえだ・しゅんご)
大和総研金融調査部主任研究員

証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を行っているほか、女性と男性の働き方や子育てへの関わり方についてもライフワークとして情報発信を行う。著書に『35歳から創る自分の年金』(日本経済新聞出版社、2020年)、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(毎日新聞出版、2017年、共著)など。