男性の育休取得率について話題になっている。では、女性の取得率81.6%は高いと言えるのか。大和総研主任研究員の是枝俊悟さんは「業種によっては5割台にとどまるところもある。規模が小さかったり人手不足で代替要員を確保しづらかったりする企業において早期の復職を求められ、(男性従業員だけでなく)女性従業員も必ずしも希望通り育児休業が取得できていないことが考えられる」という――。
コンピュータ上で子育てを見上げるアジアのお母さん
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2025年度までに30%を目指す

男性の育児休業取得率は2020年度現在12.65%(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)。男性が育児休業を取得することは、妻の出産や復職前後の大変な時期を乗り切るだけでなく、その後夫婦で協力して子育てを行っていくための手掛かりとしてとても重要だ。

政府はこれを2025年度までに30%に引き上げることを目標に掲げ、男性が育児休業を取得しやすくする環境整備を進めている。その一つが、育児・介護休業法の改正だ。今年4月より、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対し、企業には育児休業制度等の周知と育児休業取得の意向確認が義務付けられた。さらに今年10月からは、既存の育児休業制度とは別に、「産後パパ育休」として子どもの出生後8週間以内に4週間の育児休業を取得できる制度が設けられる。

不動産業、宿泊業…産後の女性に「早期復職」を求める業種

男性の育児休業取得率の引上げが課題となる一方、女性の育児休業取得については解決済みなのだろうか。女性の育児休業取得率は2020年度現在81.6%で、男性と比べれば高いものの100%にはまだまだ距離がある。産後休業と違い育児休業の取得は女性であっても義務ではないため、女性従業員がキャリアのため希望して早期復職しているならば問題ないのかもしれない。

しかし、データからは従業員側よりもむしろ企業側の事情が伺える。女性の育児休業取得率を業種別に見ると、ほとんどの業種では8割以上だが、「卸売業・小売業」は7割台、「不動産業・物品賃貸業」と「宿泊業・飲食サービス業」は5割台にとどまる。事業所規模別では、100人以上の事業所では9割を超える一方、100人未満の事業所では7割台だ。規模が小さかったり人手不足で代替要員を確保しづらかったりする企業において早期の復職を求められ、(男性従業員だけでなく)女性従業員も必ずしも希望通り育児休業が取得できていないことが考えられる。

就業継続を希望しながら、出産前に離職する女性たち

妊娠・出産・育児を理由として退職した女性へのアンケート調査(※1)では、離職時に同じ会社での就業継続を希望していた人は45.5%いる。同調査で、利用できれば仕事を続けられた支援やサービスを聞いたところ、「保育園・託児所(ゼロ歳児保育、延長保育、病児保育等を含む)」(53.7%)や「職場の育児との両立への理解、制度が利用しやすい雰囲気づくり」(36.7%)などが上位に並ぶ。職場環境や保育所の確保などの不安から、育児休業の取得どころか就業継続自体を断念している女性も少なくない。

妊娠中の女性が休日に自宅で仕事
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そもそも厚生労働省が公表している女性の育児休業取得率は、一定の期間において「在職中に出産した女性」に占める「育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む)」の割合、すなわち「在籍ベースの育児休業取得率」であり、出産前に離職した人は分母から除かれている。そこで、出産時の職業の有無を問わない、出産した女性に対する育児休業取得者の割合(出産ベースの育児休業取得率)を推計し、在籍ベースの育児休業取得率と比較したものが図表1である。

女性の育児休業取得率の推移
出所=厚生労働省「雇用均等基本調査(旧・女性雇用管理基本調査)」「人口動態統計」「雇用保険事業年報」をもとに大和総研作成

出産ベースの育休取得率は45.6%にすぎない

在籍ベースの女性の育児休業取得率は2006年度に初めて8割を超えて以後、2020年度まで80%~90%前後で推移している。一方、出産ベースの女性の育児休業取得率は2006年度時点では12.0%に留まり、この時点ではまだ出産する女性が育児休業を経て復職するケースは珍しかった。その後、出産ベースの女性の育児休業取得率は年々上昇し、2020年度現在では45.6%となっているが、それでもなお在籍ベースの81.6%とは大きな開きがある。

出産前の退職で失うものは大きい

なぜ出産ベースの女性の育児休業取得率が重要かというと、育児休業給付金が出産直後の家計を支える役割が年々大きくなっているからだ。出産直前まで職場に在籍し、(産前産後休業を経て)育児休業を取得すると、雇用保険から最長で2年間、従来の給与の50%~67%が育児休業給付金として支給される。その受給額は、女性の育児休業取得者の平均で1人あたり166万円(最長2年間の合計額、2020年度)に及ぶ(図表2)。しかし、出産前に退職していれば、たとえ出産後2年以内に再就職したとしても、育児休業給付金は1円も支給されない。

女性の育児休業給付額の推移(1人1回の出産あたりの平均額)
出所=厚生労働省「雇用保険事業年報」をもとに大和総研作成

出産ベースの女性の育児休業取得率は雇用形態により大きな違いがある。内閣府の資料(※2)によると、2010年~2014年に第1子を産んだ女性の出産ベースの育児休業取得率は、正規職員では59.0%だったがパート等では10.6%にとどまっていた。この差は、本人の希望の違いを反映したものなのかもしれないが、結果として、正規職員よりも所得が少なく雇用が不安定なはずのパート等のほとんどの人には、育児休業給付金が支給されていない実態がある。

政府は女性の育休取得率向上にも力を入れるべきだ

政府には、男性の育児休業取得だけでなく、女性の育児休業取得(出産前後の就業継続)の支援も継続して行っていただきたい。また、子育て支援の観点からは、育児休業の有無に関わらず0歳や1歳の子を家庭でみている世帯に対して一定の所得保障を行う必要もあるだろう。出産ベースの女性の育児休業取得率が45.6%にとどまるという事実は、出産後の女性の就業継続が未だ容易ではないことと、育児休業給付金による子育て支援を受けられていない世帯が、特に、非正規雇用など所得が少なく不安定なはずの女性がいる世帯に多くいることを浮き彫りにしている。

<参考文献>
(※1)株式会社 日本能率協会総合研究所「厚生労働省委託事業 令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書 〈離職者調査〉」(令和3年3月)
(※2)「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び出産・育児と女性の就業状況について」(「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2018」(平成30年11月 内閣府男女共同参画局)、pp.7-14)