高齢未婚男性と子育て期の男性の幸福度が低下した理由
高齢未婚男性と子育て期の男性の幸福度が低下した原因には、いくつかの可能性が考えられます。
まず、高齢未婚男性ですが、家族と住むのではなく、独居の場合が多いと予想されます。そして、独居高齢者は社会的な孤独に陥りやすく、幸福度も低下しやすいと指摘されています(*4)。
次に子育て期の男性ですが、2つの可能性が考えられます。
1つ目は、低経済成長率を背景とした所得の伸びの鈍化や非正規雇用の増加を受け、世帯の経済状況が悪化し、子どもを養育する負担が重くなっている可能性です。
所得が順調に伸びるわけではない現代の日本の状況下において、子育ての金銭的負担がのしかかり、幸福度を押し下げている可能性があります。
2つ目は、共働き世帯の増加によって若年層を中心に子育て負担が増加し、仕事と家庭の両立負担が増え、その結果として幸福度が低下した可能性です。
仕事をがんばらなければならないけれど、家事・育児負担も増えている。これまで女性が抱えてきた負担を男性も徐々に担うようになり、それが幸福度を押し下げている可能性があるのです。
この点に関連して、日本に根強く残る性別役割分業意識も男性の幸福度低下の原因の一つになっている可能性があります。
日本では他の先進国よりも「夫が大黒柱として稼ぐべし」という考えが強く、仕事を頑張るプレッシャーが大きいと言えます。これは育児に積極的な男性への風当たりの強さにつながり、子育て期の男性の負担感やストレスを増大させていると考えられます。
(*4) Matsuura, T., & Ma, X. (2021). Living Arrangements and Subjective Well-being of the Elderly in China and Japan. Journal of Happiness Studies.
男性の幸福度低下は今後も続く可能性がある
これまで見てきたように、2003年から2018年までの日本の幸福度の変化において、「男性の幸福度の低下」が目立っています。
中でも注目されるのが高齢未婚男性と子育て期の男性です。未婚率の上昇と共働き世帯の上昇が続いているため、今後もこれらの男性の数が増加すると予想されます。
これは男性の幸福度の低下に拍車をかける恐れがあるため、今後その動向を注視する必要があると言えるでしょう。
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。