高市早苗と野田聖子のスタンスの違い

野田氏と高市氏は、ともに1993年衆院選で初当選した同期で、年齢も高市氏が早生まれで数カ月だけ若いが学年は同じだ。けれども、政治姿勢や政策は対照的に見える。

佐藤 千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書)
佐藤 千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書)

野田氏は「多様性という視点を武器に総裁選をしっかり戦う」と宣言したように、女性の視点を前面に打ち出し、立ち位置はリベラルだ。

高市氏は、自民党の中でもかなり保守派の政治家だ。総裁選では、防衛費の大幅増額を主張し、経済政策では「アベノミクス」を継承した「サナエノミクス」を掲げ、積極的な財政出動をさらに進めると打ち出した。目標とする政治家は、英国初の女性首相であり「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャー氏である。女性であることを武器にせず、防衛問題にも比較的詳しい、強い女性政治家が高市氏のイメージだ。

しかし、一方で両氏が似ていると思うこともある。有力な男性政治家に引き立てられて、ここまでたどり着いたという点だ。最近では野田氏は、古賀誠元幹事長や二階俊博元幹事長、高市氏は安倍晋三元首相らの支援を受けてきた。特に2021年総裁選への両氏の立候補は、野田氏にとっては二階氏、高市氏にとっては安倍氏の支援なしには、実現しなかっただろう。

もちろん男性の政治家の場合でもそういうことはある。両氏とも無派閥ということも影響しているだろう。ただ、両氏には、同世代の女性政治家として共通の苦労があるように見える。まだ「政治は男のもの」という意識が根強く、女性の政治家が一人前に扱われない時代にあって、自民党内で女性政治家が階段を上っていくには、これまでは有力な男性政治家の支援を受けるやり方しかなかったのかもしれない。

「鉄の女」か「母」か

複数の女性候補が出馬してよかったと思う反面、対照的なようで、どこか似ている2人しか出られなかったことには、違和感を覚えたのも正直なところだ。

女性であることを前面に押し出し、女性や子ども政策に詳しい母親の野田氏と、男性優位社会に同調しつつ出世を重ねてきた強い女のイメージが売りの高市氏。

この2人以外にも、政策全般をよく勉強し、立ち位置が極端な保守やリベラルに偏らない女性の政治家が、もう1人出てほしかったと思う。

もやもやした気持ちを抱いていたところ、作家の北原みのり氏がそのことを見事に解説していた。

2021年10月22日朝日新聞のオピニオン面で、「『鉄の女』か『母』かの苦しさ」との見出しで、「女性はどちらかにならないといけないのかと苦しくなる」「でも、女性の数が増えることで変わっていく」「数が少ないから、まず『女性であること』があり、そして、その『女性らしさ』を本人の態度や政策などでジャッジし、女性同士を分断してしまう」と述べている。