“忘れられた紛争”にしないために

世界の歴史や各国の利害関係は複雑に絡み合っている。だからこそ、ゼレンスキー大統領の演説はあっぱれだと思う反面、危ういと感じるところもあるのだ。

しかし、大統領の演説行脚はこれからも続くだろう。

先日私がインタビューしたスタンフォード大学フーバー研究所の歴史学者、二アール・ファーガソン氏は、こんなことを言っていた。

「残念ながら、過去の例から見ても、人々は災害などへの興味を失いやすいことが証明されています。(昨年8月にアメリカ軍が撤退した)アフガニスタンを見てください。何週間もの間、アフガニスタンがタリバンの手に落ちたことが一番の話題になっていました。でも、数カ月後の今、ほとんどのアメリカ人はまったく気に留めていません。この戦争が長引けば、ウクライナも同じ運命をたどるかもしれないのです」

ウクライナを“忘れられた”紛争のシリア、アフガニスタン、イラク、ミャンマーにしないためにも、ゼレンスキー大統領の必死の発信には意味がある。世界の人々が関心を持っている間にウクライナの戦争を終わらせなければ、忘れ去られて戦争が延々と続くことにもなりかねない。そんな最悪のシナリオを現実にしてはいけないと強く感じている。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。