「攻撃された記憶」で共感を呼ぶ
「私は、あなた方のラシュモア山国立記念碑にある著名な大統領の顔を覚えています。民主主義、独立、自由、そして勤勉に働き、正直に生き、法律を尊重するすべての人を大切にする、今日のアメリカの基礎を築いた人々の顔です」
ロシアのウクライナへの侵攻は、「私たちの自由、自国で自由に暮らす権利、未来を自分たちで選択すること、幸せを望むことに対する攻撃なのです、そしてこれは、あなた方アメリカ人が求めている夢と同じ、国家の夢への攻撃なのです」と語りかける。
さらに、この演説には、有名なマーティン・ルーサー・キング牧師の「I have a dream(私には夢がある)」と同じ手法も使われた。ゼレンスキー大統領は、「I have a dream」の代わりに、「I have a need.(私には必要なものがあります)」と訴えた。
「私には必要なものがあります。私は私たちの空を守る必要があるのです。あなたの決断と助けが必要なのです」
ゼレンスキー大統領は、歴史的な記憶を思い起こさせて、アメリカ人の心に訴えかけることにも成功した。真珠湾攻撃と911(アメリカ同時多発テロ)だ。
「真珠湾攻撃、1941年12月7日の恐ろしい朝、飛行機の攻撃で空が真っ黒になったことを思い出してください。9月11日を思い出してください。2001年の恐ろしい日、悪があなたの都市、独立した領土を戦場に変えようとしたとき、罪のない人々が、空から攻撃されたのです」
今でもアメリカ人の心には、真珠湾攻撃の記憶が心に深く刻まれている。2016年、当時のオバマ大統領が広島の平和記念公園を訪問し慰霊碑に献花したが、当時日本の政府内には、この訪問に消極意見もあった。もし、オバマ大統領が広島を訪問したら、当時の安倍首相が真珠湾訪問を求められるのではないかとの懸念があったからだという。
結局、両国のトップはそれぞれ、広島と真珠湾を訪問したのだが、この2つの出来事が、どれほど戦争の傷跡として両国国民の心に深く刻まれているかを、象徴しているような気がしてならない。
イギリス議会ではスタンディングオベーション
3月に行われた、イギリス議会の演説も話題になった。イギリス議会では、外国の首脳による演説はゼレンスキー大統領が初めて。彼は、イギリスのチャーチル元首相が、第2次世界大戦でナチスドイツと戦った時に行った歴史的な演説、「我々は海外で戦う、我々は水際で戦う、我々は平原と市街で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない」になぞらえ、次のように話した。
「我々は海で、空で戦い、どれだけ犠牲を出しても領土を守る。森の中で、野原で、海岸で、都市や村で、通りで、丘でも戦い続ける」
イギリス人の心を打ったのは言うまでもない。議会はスタンディングオベーションで沸き、涙する議員もいたという。