アメリカで7月21日に公開された映画『バービー』と『オッペンハイマー』両作品の画像をコラージュしたファンアートがSNSで次々と拡散された。コラムニストの河崎環さんは、「米国人の間では、『原爆投下は戦争の終結を早めた英断だった』との認識があり、原爆の犠牲の大きさやむごさが知られていないからだろう。そしてそれは、日本が真正面から原爆の凄惨を訴え知らしめ、抗議することを避けてきた結果でもある」という――。
2023年7月21日の公開当日、アメリカ・ハリウッドの劇場兼映画館、チャイニーズシアターに掲げられた『オッペンハイマー』の看板と、『バービー』のポスター
写真=AFP/時事通信フォト
2023年7月21日の公開当日、アメリカ・ハリウッドの劇場兼映画館、チャイニーズシアターに掲げられた『オッペンハイマー』の看板と、『バービー』のポスター

『バービー』と『オッペンハイマー』で「バーベンハイマー」

「バーベンハイマー」と聞いても、何のことやらピンとこない読者の方が多いのではないか。

7月21日、米国ではグレタ・ガーウィグ監督の映画『バービー』とクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』が同日公開された。

実写版『バービー』は、米国文化を代表する着せ替え人形バービーが、現実社会や人形界が浸ってきた過去の価値観に疑問を持ち変革に乗り出すという、覚醒と女性エンパワーメントの話。他方、『オッペンハイマー』は、原爆の父として知られた米国人科学者J・ロバート・オッペンハイマーが、第2次世界対戦中に「マンハッタン計画」の要であるロスアラモス研究所での原子爆弾開発製造を率いたのち、核兵器を世に送り出したことへの良心の呵責かしゃくに苛まれ続けた生涯を描く大作だ。

しかし『バービー』が先日8月11日に日本公開を迎えたのとは対照的に、『オッペンハイマー』は原爆開発というデリケートなテーマゆえ(と理解されている)、日本では公開未定となっていることも映画好きの間では話題になっていた。

そんなまったくテーマの異なる2作だが、60年ぶりといわれるハリウッドの大規模なストライキが7月14日に開始した中での波乱の公開ということもあり、興行に勢いをつける目的もあったのだろう。米国の映画ファンの間で、一種のお祭り騒ぎが起きた。

米国X(Twitter)上で、映画ファンたちが映画『バービー』と『オッペンハイマー』を掛け合わせて「#Barbenheimer」(バーベンハイマー)とのハッシュタグを作り、2作の映画ビジュアルをコラージュするファンアートが続々と拡散されたのだ。

米ワーナーが「忘れられない夏になりそう」

原爆のキノコ雲を模したヘアスタイルのバービーや、灼熱しゃくねつの炎を背負ったオッペンハイマーの肩に乗るバービー、キノコ雲を背景にポーズを取るバービーなど、ユーザが無邪気な盛り上がりぶりを見せる中、米国『バービー』配給元であるワーナー・ブラザースの公式アカウントも「忘れられない夏になりそう」等の好意的な返信をする姿があった。

ところが、膨大な数の民間人犠牲者を出した原爆の象徴であるキノコ雲などを茶化した投稿の数々に違和感や不快感を訴える声が日米双方から上がり、日本の配給元であるワーナー ブラザース ジャパンが米国公式アカウントによる不適切投稿を謝罪。米ワーナー本社からも「配慮に欠けたソーシャルメディアへの投稿を遺憾に思っている。スタジオより深くおわびする」との異例の謝罪文が世界へ向けてリリースされた。