とにかくモットーにしているのは「笑顔でいること」。怒っている監督に「怒っちゃダメ!」などと否定するのはもちろん逆効果。「違うアプローチがありますよ」というアドバイスに耳を傾けてもらうには、“言語コミュニケーション”よりさらに手前の、表情、しぐさ、声のトーンなどの“ノンバーバル(非言語)コミュニケーション”が重要です。まず体全体で「あなたを受け入れている」と表現するようにしているのです。

益子直美さん

伝えたいからこそ聞く。傾聴力をさらに磨きたい

さらに大切にしているのが「現状把握」です。私は伝えたいことがあるとき「最近どうですか?」「調子上がってきたね」などの世間話から始めます。その反応で、相手がどれだけこちらのアドバイスを受け入れる余地があるのかを判断するのです。昔はとにかく一方通行で、怒られはしても「なぜ失敗したのか」を聞かれることはありませんでした。でもミスには必ず原因があり、それをお互いに探っていかないと改善にはつながりません。

益子さんの伝え方3カ条

これまで私は、コミュニケーションとは「上手に伝えること」だと思っていました。でもスポーツメンタルコーチングを学んだ今、「相手の言いたいことを引き出す傾聴力」こそ真骨頂であり、最重要なのだと理解を深めています。

そうやって、安心安全な場所だと認識してもらい、話し合いに進んでいったとき、もうひとつ使うあるテクニックがあります。それが「効果的に合いの手を入れること」。具体例を促す「たとえば?」、バリエーションを広げる「ほかには?」、真の感情を探る「とはいえ?」などなど。話の流れに沿ってスッと差し込むことで、話の内容が驚くほど広がっていきます。すると相手がより深く考えられるようになり、自然と答えが出て、最終的にこちらの意図がスムーズに伝わっていたりするのです。

私自身「耐えなきゃ、がまんしなきゃ」という昭和の呪縛にとらわれていた弱い人間だからこそ、今の活動に打ち込めていると思っています。スポーツを愛する人々の未来を明るく照らすべく、「伝える」技術をさらに磨いて、尽力していきます。

伝え方賢者の愛用品

左/50歳で心臓の病気が見つかって以来、脈拍や心拍数が測れるスマートウオッチをアプリと連携させて活用。右/軽くて持ち歩きができ、保存もできるメモタブレット。思いついたことはすぐに書き込む。

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構成=本庄真穂 撮影=望月みちか

益子 直美(naomi masuko)
スポーツキャスター

1966年生まれ。高校3年時にバレーボール全日本代表に選ばれ、世界選手権やW杯ほか国際大会で活躍。92年現役を引退。現在はスポーツキャスター、タレントとして活動。「一般社団法人 監督が怒ってはいけない大会」の代表理事を務める。