どんな石にも役割がある

石垣モデルのいいところは、どんな小さな石にも、どんな複雑な形の石にも役割があるところです。

小さな石、複雑な形の石というのは、これまでは能力が低いとされていた人かもしれませんし、短時間しか働けない人かもしれません。いろいろな大きさ、形の石を組み合わせるからこそ、強固で災害にも強い、しっかりとした建物をつくることができます。もしもそこに男性と女性の2種類の石しかなければ、レンガよりは強固になるかもしれませんが、複雑に組み合わされた石垣にはとうてい及びません。

もしかすると「短期的に利益が立つもの」「答えがわかっているもの」については、レンガモデルのほうが優れているのかもしれません。建てては壊し、建てては壊すことを繰り返すことも簡単かもしれません。しかし、これから未来に続くビジネスモデルを構築しよう、社会にイノベーションを起こすような価値のある仕事をしようと思ったときには、レンガモデルでは土台が弱すぎます。

「男性・女性の得意」ではなく「あなたと私の得意」

さらに、これから「個人の時代」になっていくことを考えると、自ら考え能動的に行動する優秀な人ほど、組織に属することを選ばなくなるでしょう。会社としては、そういった優秀な人に「働きたい」と思ってもらえるような価値ある会社になる必要があります。

しかし、レンガモデルの組織では、ほかにも代わりがたくさんいるので、自分である必要がないばかりか、自分の持っている能力のすべてを発揮できません。そこには人が集まらないでしょう。自分が持つ力を活かしながら、組織でなければできないような大きな仕事ができるところにこそ、優秀な人が集まるはずです。

コロナ禍が長期化し、海の向こうでは戦争も起きています。どことなくどんよりした空気が広がっていますが、だからこそ経営者のみなさんには、希望が感じられるような、未来を見据えた発信をしてほしいと思います。

おそらく、多様性の重要性は、みなさん既に理解されていると思います。方向性はそのままに、少し認識を変えていただくだけでよいのです。「男性の得意と女性の得意を、役割分担して働きましょう」ではなく、「あなたの得意と私の得意を、役割分担して働きましょう」とアップデートするだけの話なのだと思います。

構成=池田純子

村中 直人(むらなか・なおと)
臨床心理士、公認心理師

1977年、大阪生まれ。公的機関での心理相談員やスクールカウンセラーなど主に教育分野での勤務ののち、子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、発達障害、聴覚障害、不登校など特別なニーズのある子どもたちと保護者の支援を行う。現在は人の神経学的な多様性(ニューロダイバーシティ)に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動する。『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國書店)、『ニューロダイバーシティの教科書』(金子書房)など、共著・解説書も多数。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理、Neurodiversity at Work 株式会社代表取締役。