DVの支配が生む歪んだ関係

DVによる支配が生み出す結果について、「トラウマティックボンディング」と呼ばれる興味深い現象があります。直訳するなら「トラウマによる強固な結びつき」とでも言えるでしょうか。トラウマティックボンディングは、過度な暴力などによって加害者と被害者のあいだに発生する奇妙な結びつきを意味する言葉です。周囲から見るとどう考えても離れたほうがいいのに、被害者は加害者を拒絶できず、離れられない状態が続いてしまうのです。

トラウマティックボンディングは、絶対的な権力者から罰を伴う支配を受け続けることで、被害者の自己評価が下がり自責の念が生まれるところから始まると考えられています。「おまえが悪いのだ」というメッセージとともに暴力や暴言を与えられ続けると、そのメッセージがその人の中に刷り込まれてしまうのです。その結果、加害者への精神的な依存が発生し、どうしたらダメで、どうしたらよいのか、「正解」を持っている加害者の意向を常に気にするようになってしまいます。

こうしたねじれた関係は、ネガティブ感情だけでなく、ポジティブ感情のコミュニケーションが同時にあることで、さらに深刻化してしまうことも指摘されています。加害者が時おり見せる愛情表現や気づかいが、被害者にとっての「報酬」になってしまうのです。予想していなかった報酬は予想された報酬に比べて強く報酬系回路を刺激し、より多くのドーパミンを放出する傾向があります。こうして、加害者と被害者のあいだに、驚くほど強い感情的な結びつきが生まれるのです。

私は同様の現象が、度を越した〈叱る依存〉状況においても起こりえるのではないかと考えています。そしてトラウマティックボンディングのような叱る側と叱られる側の結びつきが、〈叱る依存〉を擁護し正当化する材料の一つとされてしまうこともあるでしょう。「(被害者は)私を信頼している。だからこそ、私は(相手のために)叱っているのだ。何も問題はない」。こんな発想が生まれる可能性が高くなるのです。

脳に伝達された刺激
写真=iStock.com/metamorworks
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