もはや「売れ残り」ではない

なぜ結婚する気がないのか。ひとつには、増加しつつある離婚家庭の出身者に限らず、多くの女性が結婚することに意義を見出せなくなっていることがある。

相手がいても、同棲を選ぶ人は多い。結婚と比べても、法的なデメリットはほとんどないからだ。そして事実婚、未婚の母、同性同士の親、どんな家庭の子どもも学校で肩身の狭い思いをすることはない。筆者の子どもが通う小学校のように、地域によっては、結婚している家庭の子どもはクラスのわずか1/4という場合もある。もちろん結婚したら夫婦同姓を強要する法もなく、家族の苗字は全員バラバラがごく普通だ。

もう「売れ残り」という表現は当てはまらない生涯独身者たち。エマ・ワトソンが使った「セルフ・パートナード」のほかに「シングル・ポジティブ」という言葉も使われている。相手がいない、結婚できないというマイナス面ばかり数える日々は終わり、独身でいるからこそ得られるプラス面を祝福しようということなのだ。

もちろんずっと一人でいること、シングルマザーとして子どもを育てることには相当な覚悟もいる。

独身女性向けのウェブサイト「シングル・サプルメント」を立ち上げたジャーナリストのニコラ・スロウソンさんは、ポジティブでいる鍵は「自立心を持つことと、ありのままの自分を受け入れること」だと断言する。結婚してもいつかは配偶者と死別するのだから、ひとりで楽しく生きていける能力を持っているほうが、どちらに転んでもハッピーな人生を送ることができる。100年以上かかって少しずつ自由な生き方を手に入れてきた英国の女性たちにとって、「おひとりさま」の人生は今や、デフォルトになったといえそうだ。

冨久岡 ナヲ(ふくおか・なを)
ジャーナリスト

イギリスの動きと文化を伝える記事執筆、食の動画などメディア制作、イベントプロデュースなど幅広い活動を行う。在英20年あまり。共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓 家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)ほか。