昇進をあきらめ双子のシングルマザーに

医療的な理由があれば国民健康保険が適用されるが、それ以外は全額私費なので、卵子凍結の費用はとても高くつく。自分でホルモン注射をするところから始まり、クリニックで卵子を取り出し凍結してもらう費用は1サイクルごとに平均で75万円程度かかる。保管費も年間3~6万円するので、ソーシャル・エッグフリージングができるのは、ある程度の収入がある女性に限られる。

そして、保管期間は今のところ10年間までと法律で決められている。これは科学的な根拠のない数字だそうで、女性たちはこの期間を、医療理由での卵子凍結期間と同じく55年まで延ばすよう、法改正を求めている。

45歳の医師アニータさん(仮名)は、34歳の時に卵子凍結をした。もう少しで医長昇進という大事な時に、クリニックから「期限が切れますがどうしますか?」という連絡を受けてパニックに。実はすっかり忘れていたのだった。あと1年だけ保管してもらえないかと粘ったが取り合ってもらえず、結局昇進をあきらめてドナー精子による妊娠を決断した。双子のシングルマザーとなった今、とても幸せではあるが、保管期間の延長を求める運動には積極的に参加している。

アニータさんは凍結卵子から双子を授かった
写真提供=アニータさん
アニータさん(仮名)は凍結卵子から双子を授かった

卵子凍結は、女性を縛りから解放してくれる

「私は保守的なインド系の移民家庭出身です。結婚は女性の義務という周囲からの圧力に負けて不幸な婚姻をし、子どもだけが生きがいだった母の姿に疑問を持って育ちました。そして、女性医師たちの一番の悩みは、子育てブレークを取る時期なんです。卵子凍結は私たち女性をこうした縛りから解放してくれるすばらしい手段です」と語るアニータさん。

解凍した卵子で妊娠出産まで漕ぎ着けられる確率はまだまだ低いので、卵子凍結が子どもを持つ保証になるわけではない。しかし医学の進歩はめざましく、これからもソーシャル・エッグフリージングを行う女性は増え続けることだろう。