「結婚後も皇室にとどまりたい」という意思
政府は先頃、内親王・女王がご結婚後も皇族の身分をそのまま保持されるプランを、国会に提案した(1月12日)。これは有識者会議の報告書に盛り込まれたプランで、それ自体は大きな欠陥ははらむ。これについては、本連載の2月25日公開拙稿ですでに指摘したので、ここでは繰り返さない。しかし国会が真っ当な対応をすれば、女性皇族も男性皇族と同じような形で皇室にとどまられる制度を設けることは、十分に可能だ。
注意すべきなのは、有識者会議の報告書では、これまで現行典範のもとで成長してこられた内親王・女王について、新しい制度を導入しても、過渡的な措置として“例外扱い”をし、これまで通りご結婚とともに皇族の身分を離れられる余地を残している点だ(報告書10~11ページ)。真偽不明ながら、ご結婚によって国民の仲間入りを望んでおられる女性皇族がおられるとの情報も、一部にある。
しかし、このたびの敬宮殿下のご発言は、もしご本人がご結婚によって皇族の身分を離れるご希望を持っておられたら、もう少し違った言い回しになっていたのではないだろうか。婉曲的な表現ながら、ご結婚後も皇室にとどまられるご意思をにじませたご発言と受け取ることができる。
「時代遅れの制度」見直すべき
皇族としての身分にとどまられるということは、憲法(第3章)が国民に保障している権利や自由のほとんどを断念されるに等しい。とても大きなご決断だろう。
多くの国民にとって、天皇・皇后両陛下のお側近くでお育ちになり、両陛下から直接、最も多くのことを学んでおられる敬宮殿下が、もしご結婚後も皇室にとどまって下さるなら、この上なく嬉しいことではあるまいか。
ただし、敬宮殿下が“女性だから”というだけの理由で、皇位の継承資格を認めない明治以来の制度が、現在も維持されている。“一夫多妻”を維持しているいくつかの国以外には、今や世界中でほとんど類例を見ない旧時代的なルールだ(例外は人口4万人ほどのミニ国家・リヒテンシュタインくらい)。しかもそれは、皇位継承の将来を不安定なものにしている最大の原因でもある。
敬宮殿下が、皇族の身分にとどまって下さるのであれば、唯一の直系皇族にふさわしい形で皇室の未来を担っていただくために、時代遅れな制度は見直す必要があるだろう。
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」