受け継がれた「帝王学」

歴代の天皇から上皇陛下が受け継がれた大切な「精神」が、天皇陛下からさらに敬宮殿下へと、しっかりと受け継がれていることが拝察できるご発言だ。「象徴天皇」として日々、全身全霊で務めておられるご本人のお側近くで、直接にそのご薫陶をお受けになることこそ、まさに最高の“帝王学”(上皇陛下は「象徴学」と表現されたことがある)だろう。

他にも次のようなご発言が目に止まる。

「新年には、成年皇族として初めて『新年祝賀の儀』に出席しまして、また年末から年始にかけていくつか宮中祭祀にも参列いたしまして、初めてのことばかりで緊張もございましたし、これまで両親から話を聞くだけであった行事に自分が参加しているということには少し不思議な心持ちがいたしました」

「両親と話をしておりますと、豊富な知識と経験に驚かされることが多々ございまして、また、両親の物事に対する考え方や、人との接し方などから学ぶことが多くございます」

敬宮殿下はかねて、皇室の儀式や祭祀について、両陛下から「話を聞く」機会がしばしばあったことが分かる。また、両陛下から「物事に対する考え方」「人との接し方」を学ばれているというのは、それこそ“帝王学”そのものだろう。

研鑽けんさん」という言葉が表すもの

ご成年を迎えられた敬宮殿下は、両陛下のお気持ちを真正面から受け止めておられるようだ。

そのことが拝察できる材料の一つは、天皇陛下が大切にされている「研鑽けんさん」という言葉を、今回のご会見において自然な形で織り込んでおられる事実だ。

「研鑽」という言葉は普通、学問などを深く究めることを意味する。しかし、天皇陛下の場合は、学問・知識の方面ばかりでなく、人格的・道徳的な意味合いも含まれているようだ。たとえば、皇太子として最後に迎えられたお誕生日に際しての記者会見(平成31年〔2019年〕2月21日)で、次のように述べておられた。

「(上皇・上皇后両陛下の)お姿をしっかりと心に刻み、自己の研鑽に励みつつ、今後とも務めに取り組んでまいりたいと思います」と。

その後も、この語は陛下のご会見の際に繰り返し使われている。今年のお誕生日に際してのご会見(2月21日)でも、「歴代の天皇のなさりようを心にとどめ、研鑽を積みつつ……」というように使われていた。

そこで私はひそかに、敬宮殿下のご会見にあたり、ひょっとしたらこの語を使われるのではないかと予想していた。その予想は的中した。

「皇室の皆様は……このような(皇室の一員としての)立場で研鑽を積むということの意義をお示しくださっているように思います」と。こうした言葉の選び方は、敬宮殿下が天皇陛下のお考えを“自覚的に”受け継ごうとされていることを示す。