そんなに私が嫌いなら、みんな辞めちゃえばいい!
好調な事業の裏側で、2018年に萩生田さんが第1子を出産した直後から社内の人間関係が不安定になった。スタートアップの社長によくある無理な働き方で経営を維持してきたことが裏目に出たのだ。せめて3カ月と思っていた産休もたった1カ月半で切り上げてしまった。
「自分がいないと会社が回らない現実にがくぜんとしました。子育て中の女性が24時間働くなんて無理。心身ともにCEOと新米ママの重圧に耐えかねました。『社長だから休めないなんておかしい! なんとかしなくちゃ』と焦り、スタッフとの間もギクシャク……『こんなことなら会社を売却するほうが全員のためでは』とまで思い詰めました。特に2019年に六本木ヒルズに2号店を出店した頃の私の精神状態は最悪……『そんなに私のことが嫌いなら、みんな辞めちゃえばいいじゃない』と言ってしまったことも。今はこどもも持ったことで人生が豊かになったし、事業をするうえでも子どもたちの未来や環境のことを真剣に考えるようになり、産んでよかったと心から思っています。でも当時は、産後うつ状態寸前で、周囲の人の気持ちを考える余裕がなかったんだと思います」
みんながやりたいことをする、サステナブルな会社に
スタートアップの創業期には強いリーダーが必要だった。しかしライフイベントの壁に阻まれ、社長主導型の組織のままでは会社が立ち行かなくなった。
「これからは私の意見だけではなく、みんながフラットに意見を出し合って進めていく形に変える必要がありました。社長主導型を止め、自律分散型の組織に移行するために、ホラクラシー(※2)の専門家に経営参加してもらい、経営上の数字や給与体系のオープン化、権力構造の解体など、抜本的な構造改革をしました」
(※2)ホラクラシー:自律的なグループに決定権を分散させることで、それぞれのグループが能動的に活動できるようになる組織管理システム
今では、16名のスタッフが平等に意見を言い、おのおのがやりたいことを事業化していく組織に変化しつつあるという。たとえばコロナ禍で世界のバラ園が危機的状況にあることから、アフリカのケニア以外の地域、南米のコロンビアやエチオピア、日本のバラ農家からも花を仕入れる“ワールドローズ”というプロジェクトや、バラの空輸時に出るCO2の総量に対して植林を進めるカーボン・オフセットなど、環境に配慮したアクションもスタッフ発信で進んでいる。
創業から10年。萩生田さんがたった1人で始めた「アフリカの花屋」は、多くの人の力を巻き込みながらみんなで前進し、社会に小さな変化を起こしてきた。
ひたむきにアフリカのバラを販売し続け、売り上げはコロナ禍でも創業時の10倍以上に伸びた。契約するアフリカ・ケニアのバラ農園の従業員は9割が女性だ。シングルマザーも多いが平均勤続年数は長く、マネジャークラスになるとかなりの収入を得られるという。
「ケニアの農園従業員のなかには、子どもを寄宿学校に通わせている母親もいます。女性の収入増は子どもの教育レベル向上に直結するので、ケニアの人たちに貢献できていると思っています」
そう語る萩生田さんだが、2022年の3月をもって「AFRIKA ROSE」を展開するAsante代表を辞するのだという。
「もうAFRIKA ROSE=萩生田愛というフェーズは終わっているのです。会社には残るし、事業は存続させますが、私が得意なのは経営よりも、新しい何かを立ち上げること。本当のサステナブルって、まず自分を生かすことが第一。自分も他人も幸せになってこそ、物事を長く続けられるのだと考えるからです」
10代で抱いた使命を30代で形にし、改革を追う萩生田愛さん。次の10年もその先も、新たな道なき道を進んでいくに違いない。
構成=モトカワマリコ
アフリカ・ケニアのバラの輸入販売を手がけるAsante代表取締役。1981年、東京生まれ。米国大学卒業後、大手製薬会社勤務を経て、2011年アフリカ・ケニアに渡る。アフリカの人々と対等な立場で関わりたいとビジネスを模索。生命力溢れるアフリカのバラに魅了され、12年にバラの輸入販売会社Asanteを立ち上げる。15年、アフリカバラ専門店「AFRIKA ROSE」を東京・広尾に、19年、東京・六本木ヒルズ内に「AFRIKA ROSE & FLOWERS」をオープン。草月流師範。著書は『アフリカローズ 幸せになる奇蹟のバラ』(ポプラ社)。