全員に高校物理を教える必要はあるのか

信頼できる教育レベルと物理学の博士号を持った物理教師はこう嘆く。

「高校でやる物理はあまりに理論寄りですし、物理に興味がなく、能力的に高くない生徒に対して、必修科目である物理基礎を学ばせることが正しいことなのかすら疑問です。定理を教えても、その定理が生まれた背景に感動することも、知りたい気持ちもありませんし、簡単な公式の暗記も難しいですから。彼らのレベルであれば、生活に即した中学校理科を楽しく学ぶところまでで十分だと思います。正直、強引に物理を覚えさせることはかわいそうに思えてなりません」

高校生段階になっても、小学校に配当されている漢字や分数・小数の計算がままならない生徒は大勢いる。覚えられないのだ。

一方、東大京大・医学部医学科を狙うレベルの子だと繰り返しの時間など必要ないから早く先に進んでくれ、という知的好奇心を見せてくることも多い。無論、前回の授業の内容などほぼ完璧に暗記できている。

悲しい話だが、こちらがよかれと思って挟み込む雑談すら、前者の子たちはすぐに忘れてしまうし、後者の子は同窓会のその日まで覚えていたりする。

それぞれの学力の向上を目指す勉強を用意する

これは努力の有無の差ではないと理解する方がよいのではなかろうか。と言うのも、彼らは自分の暗記力のなさ、彼ら自身の言う「馬鹿さ」を努力不足と連関して捉える可能性があるからだ。彼らが努力をしなかったからできないわけではないし、後に東大などに進学する人々が小学生段階の暗記で多大な努力をしたり、暗記術を習得したからできるようになったわけでもないだろう。

まず、暗記力にも一定の才能があることを前提として、それぞれの学力の向上を目指す勉強を用意してあげる方が、その個人にとっても、社会にとっても、一教室にとっても利益に繋がるのではないかと思ってしまう。