精神科医の井上智介さんのところには、時々「子どもがひきこもりになり困っている」という親からの相談がある。井上さんは「多くの人は、『ひきこもり』に対して誤解をしている」という――。
明かりのついていない寝室に座り込んで膝を抱えている男性
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親だけで精神科を受診

「子どもがひきこもりなのだが、どう対応すればよいのかわからない」
「子どものひきこもりをやめさせるには、どうしたらいいのか」

精神科の外来では、こういった子どものひきこもりについて、親がアドバイスを求めて受診されることがあります。どこに相談すればよいのかわからず「とりあえず病院に」と来られる方も少なくありません。

この「ひきこもり」について、世間の人が抱くイメージは、実態とずれていることが多いと感じます。よくある誤解は、大きく4つあります。

(1)ひきこもりは若者が多い

内閣府の定義によると、ひきこもりとは、「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である」とあります。つまり、「学校に行かず、仕事もせず、家庭外の交流を原則的に6カ月以上回避し、おおむね家の中に閉じこもっている人」ということです。

内閣府はこれまでに何度かひきこもりの調査をしています。年により調査対象の年齢層は異なりますが、例えば2015年の15~39歳を対象とした調査では、ひきこもりの数は推計54万1000人でした。一方、2018年に40~64歳を対象に調べたところ、全国に61万3000人いると推計されました。「ひきこもり=若者」というイメージがありますが、必ずしもそうではないことがわかります。2018年の内閣府の調査では、「『ひきこもり』は、どの年齢層にも、どんな立場の者にもみられるものであり、どの年齢層からでも、実に多様なきっかけでなりうるものであることが分かる」と指摘しています。

(2)ひきこもりは不登校から始まる

「ひきこもり=若者」というイメージのせいか、「学校に行けなくなり、そのまま仕事もできずに社会と接点が持てなくなる」という印象も強いようです。しかし2015年の内閣府の調査によると、実際は、15~39歳のひきこもりの人のうち、きっかけが小中高の不登校だった人は18.4%にすぎませんでした。つまり8割以上は、社会人を経験してからひきこもりになったことがわかります。2018年の調査では、40~64歳の中高年のひきこもりのきっかけで一番多かったのは、「退職」で、36%にのぼっていました。