理想と現実にはギャップがある

シミュレーション結果から明らかなとおり、夫婦間で均等に近い割合で家事・育児をシェアすると、妻の幸福度は高くなります。

夫婦のどちらかに家事・育児負担が偏るのは、望ましい状態だと言えません。

この点に関して、「夫婦で均等に家事・育児を負担するのは、絵空事でしかない。現実はもっと厳しく、わが家ではこんなことおこりっこない」と思われる方もいるでしょう。

そのとおりです。これはいわば、「理想の状態」です。

理想と現実には大きなギャップがあります。

その点を検証したのが図表3です。図表3では、①夫婦間の家事・育児負担の「現実」の値、②シミュレーションによって算出した「理想」の値、そして③「理想」と「現実」のギャップを示しています。

働く妻の家事・育児時間の理想と現実のギャップ

図表3が示すように、日本の家庭では、働いている妻の平均的な家事・育児負担割合は80%を超えています。つまり、家事・育児の大半を妻が行っている状態です。

家事・育児負担割合の理想と現実のギャップは約28%であり、時間に直すと、1週間あたり約16.2時間となります。これはだいたい1日あたり2.3時間です。

つまり、理想と現実のギャップを埋めるには、「夫の家事・育児時間を1日約2.3時間増やす必要がある」ということになります。

夫の家事・育児時間は20年かけて45分増えた

この数字を見た際、読者の方はどのように思われたでしょうか。男性(夫)、女性(妻)といった立場によりますが、「難しい」と感じた方も多いのではないでしょうか。

総務省統計局の「社会生活基本調査」によれば、6歳未満の子どもを持つ夫の1日あたり家事・育児時間は、1996年で38分、2016年で1時間23分です。この結果は、20年間で、小さな子どもを持つ夫の家事・育児時間が45分増えたことを示しています。

20年間で45分ですので、2時間近く増やそうとすれば、かなりの期間が必要ということになります。

もちろん、実際にはさまざまな改善が今後なされ、急激に夫の家事・育児時間が増える可能性もあるわけですが、「社会生活基本調査」の数字は夫の家事・育児時間を引き上げることの難しさを示しています。

ただ、夫の家事・育児時間を増やすことには妻の幸福度の上昇だけでなく、少子化対策としても有効であるため、何かの方策を見つけることが望ましいでしょう。

厚生労働省の『21世紀成年者縦断調査』の調査結果から、夫の休日の家事・育児時間が長いほど、第2子の出産割合も高まることが指摘されています(※1)。夫の家事・育児時間の増加は、少子化の抑制にも一役買いそうです。

(※1)厚生労働省「第6回21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況