1980年代以降、世界中で格差は広がり続けており、コロナ禍でこの傾向は加速した。一方、コロナ禍で人助けをする人の数も増えたという。ジャーナリストの大門小百合さんが、2021年末に公表された、国際的な「格差」と「人助け」に関する報告書を読み解く――。
不平等の概念
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トップ1%が世界の富の38%を所有

2021年末、世界不平等レポート2022(World Inequality Report 2022)が発表された。このレポートは、『21世紀の資本』で有名なフランスの経済学者、トマ・ピケティが設立した世界不平等研究所(World Inequality Lab)が2018年に続き4年ぶりにまとめたものだ。

レポートによると、コロナ禍で世界中の多くの人が仕事を失った一方で、「2020年は、ビリオネア(億万長者)が保有する世界の富の割合が、かつてないほど大きな年となった」という。

世界のトップ1%の富裕層が、世界の富の37.8%を所有し、上位10%は、世界の富の76%を保有していることも明らかになった。彼らの資産は、新型コロナの感染拡大以前の2019年に比べ、それぞれ0.7ポイントと0.4ポイント増えている。一方、下位50%の人々の資産占有率は2%で横ばいだった。

日本で普通に生活をしていると、いわゆるビリオネアと呼ばれる人たちに出会うことはほとんどない。しかし、世界では、そんな人たちが増えているというのだ。

今の格差は1900年代並み

歴史を見てみると、20世紀初頭は、アメリカ国内では富裕層のトップ1%が全てのアメリカの富の43%を持ち、西ヨーロッパでは55%の富を所有していたというように格差が顕著な社会だった。しかし、戦争、経済危機、植民地の独立などを経て、また相続税や累進課税の導入などの政策的な影響もあり、この不平等は、1980年代までの間に劇的に減少したと前述の世界不平等レポートはいう。

その結果、1970年には、ヨーロッパやアメリカのトップ1%の富は全体の25%以下になった。ところが、1980年代以降、イギリスのマーガレット・サッチャー首相、アメリカのロナルド・レーガン大統領などの登場で、規制緩和、民営化が進み、緩やかな累進課税の仕組みが導入されたことにより、再度、富の格差が広がり始めたのだ。

ここ数年はその格差がさらに拡大し、20世紀初頭の状態に戻りつつあり、特にアメリカでは2020年、トップ1%が全体の富の35%を持つまでになっているという。アメリカのテック企業の創業者や日本のZOZO創業者の前澤友作氏のことなどを考えると、確かに世の中で富の格差は広がっていると感じる人も多いのではないだろうか。

ブルームバーグによると、超富裕層がコロナ危機の間に増やした富は3兆6000億ユーロ(約460兆円)。世界銀行はこの期間に世界で1億人程度が極度の貧困に陥ったと推計している。

儲かっている人たちには、もっと社会に貢献してほしいと考える人がでてきても不思議ではない。