これからも、金持ちはより金持ちに

ところで、前述の不平等レポートには、お金持ちになればなるほど、富の拡大のスピードは速まるということが、過去40年の実績で明らかになったとも書かれている。特に金融の規制緩和とさまざまな金融資産の運用によって、収益率に対する規模の優位性は顕著になりつつある。

「この効果について最も説得力のある証拠は、1980年代以降、大学(米国のアイビーリーグ大学など)の基金の収益率が、最も小さい基金では年率4~5%、最も大きい基金では年率7~9%(インフレと運用コストを控除後)と変化していることから得られている」。そして、この状況は、運用資産を持つ個人にも当てはまるのではないかという。

仮に1995年からと同じぺースで富の不平等が進んだ場合、2070年には世界の上位0.1%の人々が世界の富の4分の1以上を持つようになり、今世紀末には、世界の中間層40%よりも多くの資産を所有することになるとレポートは予測する。

「経済政策の大きな変化やショック(環境破壊、戦争、経済危機)がなければ、世界の億万長者たちの未来は明るい」

ただ、レポートはこうも指摘する。過去のデータが示すのは「不平等は政治的な選択であり、必然ではない」と。

富を蓄えることも、その富を分配することも人間のなせる業である。未来の世界を明るいものにするために、寄付について、そして富の分配について私たちができることを考えてみるべきではないだろうか。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。