非正規雇用者はゼロアワー雇用に

マクドナルドのアルバイトは23歳以上が時給1359円、夜間勤務になると2419円まで上がり、スーパーのレジ係は18歳以上で1500円から。

近年の日本では非正規雇用者の増加が問題となっているが、イギリスでは「ゼロアワー雇用(ゼロ時間雇用)」の増加が懸念されている。会社と雇用契約を結んでいるものの、雇用主が要求した分しか働けず、定収入は見込めない契約だ。ロックダウンで失業した人たちがゼロアワー雇用へ流れたため、労働者全体に占める割合は2019年の2.7%から2020年の3.3%まで上昇した。

コロナ禍でイギリスの平均年収が上がった裏事情

一方、コロナ禍で全体の平均年収は逆に上がったという。

「失業者は増えましたが、ロックダウンにより、生活必需品を売るお店や医療関係者などを除いて全員が通勤を禁じられ、自宅をオフィスとして使用する手当てが1~10%給料に上乗せされた影響があるようです。また、イギリスでは通勤交通費は個人負担で、各人が確定申告により必要経費として計上します。郊外に住んでいると通勤費が収入の3割を占める場合まであり、自宅勤務になって懐に入る額が増えました」(冨久岡氏)

今後、とりわけ平均年収以下の職業のイギリス人に影響するのが、2020年1月末をもってEUから正式に離脱したことだ。

「以前は東欧などから労働者が押し寄せていたため、イギリス経済は低賃金労働者の上にあぐらをかいていました。離脱によりEUから働き手が入れなくなり、人手不足が深刻な農業や運輸の分野では、EU国籍所有者に対して短期労働ビザを与えるなどの対策を採っています。しかし政府としては暫定措置であり、今後は給料の底上げ、職業訓練を含めた教育の充実を目指し、コロナ対策に投じた国費の充填が終われば税率を引き下げ、収入格差を縮めて骨太な国をつくる、という方針を打ち出しています」(冨久岡氏)

ボリス・ジョンソン首相は10月の演説で、コロナ後のイギリスを「high-wagehigh-skill,high-productivityeconomy(高賃金・高スキル・高生産力経済)」にするという抱負を語った。

坂田 拓也(さかた・たくや)
フリーライター

大分市出身。明治大学法学部卒業。1992年にサンパウロ新聞(サンパウロ)記者、97年~2004年『財界展望』編集記者。フリーを経て08年~18年まで『週刊文春』記者。現在、フリー。