男性が「つらい」と言いやすい社会へ

本当は女性の足を踏みたくないのに、職場では出世を目指すのが当然とされ、家庭では大黒柱であることを求められる。男は強くあれと育てられてきたためにそう思い込み、つらくてもそれを言い出しにくい──。

これらは男性だからこそ直面する「男性問題」であり、新しい男性像を実現していく上では必ず解消しなければならないものだと思います。そのためには、男性が「つらい」と言える社会、そしてそのつらさを受容する社会にしていく必要があります。

現状の日本は「男がつらいよ」とは言い出しにくく、口にすれば必ず「男が生きづらいとは何事か」という反発の声が上がります。こうした反発は男性学が始まった瞬間からあり、今もあまり変わっていません。

「男のくせに女性の肩をもつのか」

日本の男女平等問題においては、議論の中心は女性の被害者性であり、男性が抱える問題は話題になってきませんでした。本来は男女どちらもが生きやすい社会を目指すべきだと思うのですが、男性がこの両方を同時に語ろうとすると男女双方から反発に遭い、引き裂かれてしまうことも少なくありません。

女性の被害者性を語れば「男のくせに女性の肩をもつのか」と男性から叩かれ、男性の被害者性を語れば「男性特権があるのにつらいとは何事か」と叩かれる。例えるなら、人間として生きようとすれば悪魔から叩かれ、悪魔として生きようとすれば人間から叩かれるデビルマンみたいなものです。

このように、男女平等という観点で男性問題を語るのはなかなか難しく、正解もひとつではないでしょう。それでも、せっかくの国際男性デーですから、この機会に身近な人と一緒に、男性問題について考えてみてはどうでしょうか。

男女平等を目指す上で求められるのはどんな男性像なのか、どんな社会になればそうした男性が増えていくのか、男性も女性も一緒になって考えてみてほしいのです。国際男性デーが、年に一度のそうした機会になることを願っています。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。