未婚の子との同居は高齢の親の幸福度を低下させる

未婚の子との同居が高齢の親の幸福度に及ぼす影響について、大阪商業大学の宍戸邦章教授が分析を行っています(※2)

その結果は、「未婚の子との同居が男女両方の親の幸福度を低下させる」というものでした。

さらに、宍戸教授は「既婚の子との同居が男親の幸福度を高める」という結果も明らかにしています。なお、高齢女性の場合、既婚の子との同居の影響は確認できませんでした。

宍戸教授は、未婚の子の場合、日々の家事や経済面における基礎的な生活基盤を親に依存する傾向があるため、親の負担が増加し、幸福度の低下につながるのではないかと指摘しています。また、既婚の子の場合、同居は将来にわたる生活基盤の安定につながるため、親の幸福度を高めている可能性があると述べています。

以上の結果から、未婚の子との同居は高齢の親にとってあまり望ましいものとは言えないようです。

ただし、未婚の子との同居の及ぼす影響が状況によって変化する可能性があります。親の健康状態が悪化し、その生活上の支援のために同居する場合等が例として考えられます。この場合、子との同居がセーフティーネットとして機能するわけです。

この際の影響についてまだ十分な分析はありませんが、おそらく親の幸福度を高める効果があると予想されます。この点について、今後の研究が期待されるところです。

※2 宍戸邦章(2007)「高齢期における幸福感規定要因の男女差について――JGSS-2000/2001 統合データに基づく検討日本版 General Social Surveys 研究論文集[6]JGSSで見た日本人の意識と行動 JGSS Research Series No.3.

ヨーロッパでも高齢の親と子との同居に注目が集まりつつある

日本では世帯構造の変化から子どもと高齢の親の同居が注目されますが、実はヨーロッパでも別な理由からこの点について関心が高まっています。

その理由とは「景気の悪化」です。

2009年の世界的な金融危機や直近のコロナウイルスによる影響によって景気が悪化し、若年層が失業の憂き目に遭う事態が増加しました。

職を失った子どもが住まいを確保するためにも、親元に帰るという動きが見られたのです。ヨーロッパでは高齢の親と子の同居が長期的に減少する傾向にありましたが、近年その動きに変化が表れたため、新たに注目を集めています。

ちなみに、子との同居が高齢の親に及ぼす影響について見ると、親の生活の質(Quality of Life)を悪化させるという結果もあれば(※3)、逆にメンタルヘルスの改善につながったという結果もあり(※4)、まだ結論には至っていません。

この点についても今後の研究結果が気になるところです。

※3 Tosi, M.,&Grundy, E. (2018). Returns home by children and changes in parents' well-being in Europe. Social Science and Medicine, 200, 99-106.
※4 Courtin, E.,&Avendano, M. (2016). Under one roof: The effect of co-residing with adult children on depression in later life. Social Science and Medicine, 168, 140-149.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。