日本の世帯構成3つの変化
日本は高齢化に直面しています。
この高齢化の進展とともに、高齢者の世帯構造に大きな変化が生じています。図表1は65歳以上の高齢者がいる世帯を5つのグループに分け、その推移を見たものです。
この図から3つの変化が読み取れます。
1つ目は、「単独世帯と夫婦のみの世帯の増加」です。2019年には両世帯を合わせた割合が61%となっており、高齢者のみで暮らす世帯が半数以上を占めています。
2つ目は、「三世代世帯の減少」です。1986年では三世代世帯の割合は45%とほぼ全体の半分近い値でした。当時、子や孫との同居は高齢者の一般的な居住形態だったと言えるでしょう。
しかし、2019年になると、この割合はわずか9%にまで落ち込んでいます。1986年と比較すると、5分の1の規模です。現在の日本では親・子・孫で一緒に住む形は希少なものになりつつあります。
3つ目は、「未婚の子と同居する高齢者の増加」です。1986年では未婚の子と同居する高齢者の割合は11%程度でしたが、2019年には20%にまで上昇しています。世帯数で見ると、2019年で約512万世帯となり、三世代世帯の数(約240万世帯)の約2.1倍です。
独居高齢男性の幸福度は低い
1つ目の近年増加する独居高齢者の幸福度に関して、中央大学の松浦司准教授と法政大学の馬欣欣教授が分析を行っています(※1)。
この分析によれば、「独居高齢男性の幸福度は(家族と暮らす高齢男性と比べて)低くなる傾向がある」ことがわかっています。
背景として高齢男性は人との交流が少なく、ひとり暮らしになることによって孤立化しやすいという点と家事負担が影響していると指摘されています。
※1 Matsuura, T., Ma, X. Living Arrangements and Subjective Well-being of the Elderly in China and Japan. J Happiness Stud (2021). https://doi.org/10.1007/s10902-021-00430-0.
ひとり暮らしをする高齢女性の幸福度は高い
これに対して、「独居高齢女性は(家族と暮らす場合に比べて)幸福度が高くなる傾向がある」ことがわかっています。
この理由は家事負担からの解放です。
日本では性別役割分業意識が依然として強く、女性に家事負担が偏りがちです。ひとり暮らしだと他の家族の家事負担もなく、気兼ねなく生活できるため、幸福度が高まるというわけです。
また、女性の場合、男性よりも家庭外での交友関係が広く、孤立化しにくいといった点も影響しています。
松浦准教授らの分析では、独居高齢女性と独居高齢男性の幸福度の比較も行っていますが、女性の幸福度のほうが高いことを明らかにしています。
ひとり暮らしの高齢女性は、相対的に幸せに暮らしているようです。
近年、高齢者の独居世帯が増加していますが、女性のほうが男性よりも平均寿命が長い点を考慮すると、相対的に幸福度の高い高齢独居女性の比率が高くなっている可能性があると考えられます。
ただし、高齢者世帯でも貯蓄や所得が幸福度に大きな影響を及ぼすため、安定的な経済基盤の確保が課題として懸念されます。
未婚の子と同居する高齢者は幸せなのか
次に、日本において増えている「未婚の子とその親」という世帯について見ていきます。
国民的テレビアニメである『サザエさん』のように、子夫婦と同居する親といった居住形態は、今では少なくなっています。
ここで気になってくるのは、「増加する未婚の子との同居が高齢の親にどのような影響を及ぼすのか」という点です。
はたして未婚の子との同居は、高齢の親に幸せをもたらすのでしょうか。
未婚の子と同居するメリット・デメリット
未婚の子との同居にはメリットもあれば、デメリットもあります。
まず、メリットとして挙げられるのは、同居している子から提供されるさまざまな生活上の支援です。
親に代わって子が日常生活の買い物や重い荷物の持ち運び、農作業、車の運転等を行ってくれることが考えられます。これ以外にも、親の健康状態が悪化した際、家庭内の介護の担い手として活躍することも考えられます。
これに対してデメリットとして挙げられるのは、家族という近い関係の中で発生するストレスや子への経済面での支援です。
同居という形をとっている以上、親子間でのコミュニケーションがあるわけですが、その中でさまざまなストレスがたまる可能性があります。また、経済的な理由から親との同居を選択している子世代の存在も考えられます。いわゆる「パラサイトシングル」であり、これも親の経済的負担となっている可能性があります。
以上のメリットとデメリットの大小関係によって、未婚の子との同居の影響が決まってきます。メリットのほうが大きければ、未婚の子との同居は幸福度を高めるでしょう。しかし、デメリットのほうが大きければ、未婚の子との同居は幸福度を押し下げる要因となります。
はたして実態はどちらなのでしょうか。
未婚の子との同居は高齢の親の幸福度を低下させる
未婚の子との同居が高齢の親の幸福度に及ぼす影響について、大阪商業大学の宍戸邦章教授が分析を行っています(※2)。
その結果は、「未婚の子との同居が男女両方の親の幸福度を低下させる」というものでした。
さらに、宍戸教授は「既婚の子との同居が男親の幸福度を高める」という結果も明らかにしています。なお、高齢女性の場合、既婚の子との同居の影響は確認できませんでした。
宍戸教授は、未婚の子の場合、日々の家事や経済面における基礎的な生活基盤を親に依存する傾向があるため、親の負担が増加し、幸福度の低下につながるのではないかと指摘しています。また、既婚の子の場合、同居は将来にわたる生活基盤の安定につながるため、親の幸福度を高めている可能性があると述べています。
以上の結果から、未婚の子との同居は高齢の親にとってあまり望ましいものとは言えないようです。
ただし、未婚の子との同居の及ぼす影響が状況によって変化する可能性があります。親の健康状態が悪化し、その生活上の支援のために同居する場合等が例として考えられます。この場合、子との同居がセーフティーネットとして機能するわけです。
この際の影響についてまだ十分な分析はありませんが、おそらく親の幸福度を高める効果があると予想されます。この点について、今後の研究が期待されるところです。
※2 宍戸邦章(2007)「高齢期における幸福感規定要因の男女差について――JGSS-2000/2001 統合データに基づく検討」日本版 General Social Surveys 研究論文集[6]JGSSで見た日本人の意識と行動 JGSS Research Series No.3.
ヨーロッパでも高齢の親と子との同居に注目が集まりつつある
日本では世帯構造の変化から子どもと高齢の親の同居が注目されますが、実はヨーロッパでも別な理由からこの点について関心が高まっています。
その理由とは「景気の悪化」です。
2009年の世界的な金融危機や直近のコロナウイルスによる影響によって景気が悪化し、若年層が失業の憂き目に遭う事態が増加しました。
職を失った子どもが住まいを確保するためにも、親元に帰るという動きが見られたのです。ヨーロッパでは高齢の親と子の同居が長期的に減少する傾向にありましたが、近年その動きに変化が表れたため、新たに注目を集めています。
ちなみに、子との同居が高齢の親に及ぼす影響について見ると、親の生活の質(Quality of Life)を悪化させるという結果もあれば(※3)、逆にメンタルヘルスの改善につながったという結果もあり(※4)、まだ結論には至っていません。
この点についても今後の研究結果が気になるところです。
※3 Tosi, M.,&Grundy, E. (2018). Returns home by children and changes in parents' well-being in Europe. Social Science and Medicine, 200, 99-106.
※4 Courtin, E.,&Avendano, M. (2016). Under one roof: The effect of co-residing with adult children on depression in later life. Social Science and Medicine, 168, 140-149.