若者が取り組んでほしい社会課題の1位はジェンダー平等

国民はジェンダー問題に関心がないわけではないのです。たとえば今の若者はジェンダー平等にかなり高い関心を持っています。ハフポスト日本版の調査によると、「候補者・政党に特に積極的に取り組んでほしい社会課題は」という設問に対し、30歳未満では「ジェンダー平等」が最多でした。

今はどこの大学でもジェンダーに関する授業が当たり前のように行われていますから、一般的な学生でもこの問題についてはよく知っています。僕の場合、まずは生活や日常のどんな場面でどんな問題が起こっているかを伝え、次にそれを放置しているとどんな将来が待っているかを考えてもらうようにしています。

若者以外の世代に伝えるときも、同じ工夫が必要ではないでしょうか。ジェンダー問題は、生活や日常の中で起こっている具体的な事例とからめて伝えなくてはいけないと思います。どこか別の世界の話ではなく、自分たちの生活の中で起こっている話なのだとわかってもらうことが大事なのです。

裁判官国民審査で見えたこと

もうひとつ、同日に行われた最高裁裁判官の国民審査では、選択的夫婦別姓を認めない法律を合憲とした裁判官に多くの罷免票が集まりました。衆院選と違って、こちらは「選択的夫婦別姓」が大きな争点になり、多くの国民が投票に動いたのです。

このときは、選択的夫婦別姓の導入を求める市民団体や著名人が、各裁判官の姿勢や投票用紙の書き方などをわかりやすくまとめて、SNS上で投票を呼びかけていました。衆院選も、こうしたわかりやすいトピックをつくり出せていたら現実の投票行動につながったはずです。

選択的夫婦別姓はジェンダー問題のひとつでもあります。なのに、裁判官の審査ではたくさんの国民が関心を寄せ、大きな盛り上がりを見せました。つまり、国民はジェンダー問題に関心がないわけではないのです。

衆院選後、「国民はジェンダー平等に関心がない」「それを掲げても選挙には勝てない」といった報道をよく見かけますが、僕はそれはウソだと思っています。

ジェンダー平等を掲げた野党が選挙に勝てなかったのは、アピール方法を間違ったからです。国民がジェンダー平等に無関心であるかのような報道に対しては、ぜひ「言いくるめられない」「うのみにしない」姿勢で接していただきたいと思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。