自分の感情を対象物化する

自愛することで自分の考え方の癖がわかったら、ユーモアを込めて、その癖に「○○ちゃん」と名前をつけてみるといいですね。

青空
撮影=Hiroshi Homma

怒りっぽい人は「またイライラちゃんが出てきた」という感じです。そんなふうに自分の感情をいったん対象物化したら、その感情をかわいがることができて、振り回されることもありません。

これは、もともと坐禅や瞑想の最中に、ひざが痛くなったり、背中がかゆくなったり、体の感覚が変化したときに使う方法。「痛みちゃんがきている」「かゆみちゃんがあらわれた」と体の変化を対象物として見ると、「俺の足が痛い」「俺の背中にじゃまものがいる」と思うのと全く体の感覚が変わってくるのです。

そんなふうに心の癖や感情の変化についても体のように見てほしいですね。最初は体で練習してみるとわかりやすくていいかもしれません。

コロナ禍で「人のせいちゃん」が大量発生

心や体だけでなく、世の中のエラーちゃんを見つけると、そこにハンドルを持たせず、自分でコントロールして生きていくことができます。このシーンで、このエラーちゃんがくるとわかれば、その対処方法も奥深いものになっていきます。

石畳
撮影=Hiroshi Homma

たとえば今のコロナ禍なら「人のせいちゃん」というエラーちゃんが出てきがちです。自分のやる気が出ないのを、政府の対応が悪い、仕組みが悪い、と人のせいにする癖がつくと、いつまでたっても自分でハンドルが握れません。

でも「人のせいちゃんがきてる」と思えば、自分でその状況を引き受けて、自分の人生をコントロールできる。世の中のムードに流されずにすむのです。

かつて手に入れたいと思っていたものが手に入っているのに「もっと、もっと」と理想を求めてしまうのも、周囲と比較したり周囲に流された状況と言えます。一般的に言われるような「自己肯定感を上げること」からは離れ、こうやったら自分の機嫌がよくなるというパターンを見つけていくとよいでしょうね。

禅には「知足」という言葉があります。これは、今の状態が既に満たされているということに気付きましょう、ということです。それはなかなか難しいことなので、ここでは「その満たされている自分に気付く時間を持ちましょう」という解釈をお伝えできればと思います。

例えば寝る前に、1日数分でも自分を愛する時間をとりましょう。そうするだけで、自ずと今の悩みは解決していくはずなのです。

伊藤 東凌(いとう・とうりょう)
両足院 副住職

京都「両足院」副住職。両足院で生まれ育ち、3年間の修行を経て僧侶に。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『月曜瞑想』(アスコム)がある。