為替相場で価格が動く円やドル、売買で価格が変動するビットコインなどがノンステーブルです。円やドルは、価格が変動しても集中型のため、中銀が発行量を調節したり、為替に介入したりして、通貨としての安定を保つことができます。一方ビットコインは投機的な売買で価格が乱高下すると、分散型のため、円やドルのように管理者が価格維持のために介入できず、通貨としては使いづらくなっています。

ステーブルの代表例は電子マネーです。PayPayやdポイントは1ポイント1円、Suicaも円と同じ価値を持ちます。発行企業が流通量と同額の現金を準備金として保有し、価値の裏付けがあるため、消費者は安心して使うことができます。金の価値の裏付けがある金貨もステーブルです。実はドルに価値が固定されているテザーなど、ステーブルの暗号資産もあり、注目が高まっていますが、価値を維持するだけの準備があるのかといった不安もあり、存在感はいまひとつです。

信頼性があり、価値固定の「いいとこどり」をめざす通貨

さて、分散型で運用コストが安く、国がバックという信頼性があり、価値固定の「いいとこどり」をめざす通貨が中銀発行デジタル通貨です。納税に使える点でも有利で、10年以内に実装されると思われます。ただ、私たちの実感はあまり変わらないでしょう。消費者や個々の企業にとっての中銀デジタル通貨のやりとりは、従来の口座送金と同じように見え、違うのは管理手法だけだからです。

電子マネーは規格間競争が一巡し、交通系といずれかのポイント2、3に集約され、現状の乱立状態は数年もすれば落ち着くと予想されます。なお、暗号資産は投機対象としての魅力や、自国通貨の信用力の低い途上国での利用がどれだけ広がるかで10年後の意味合いが大きく変わってくるでしょう。

構成=奥田由意 イラスト=秋葉あきこ

飯田 泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部教授

1975年生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専攻はマクロ経済学、経済政策。『経済学講義』(ちくま新書)、『日本史に学ぶマネーの論理』(PHP研究所)など著書、メディア出演多数。noteマガジン「経済学思考を実践しよう」はこちら